湯布院の街を、秀と由美は並んで歩いていた。
「この辺、静かでいいね」
由美が周りを見渡す。
「うん。少し休憩しようか」
秀がそう言ったとき、坂道の先に小さな店が見えた。
白い壁に、木の扉。
軒先には、可愛らしい看板が掛かっている。
むすび洋菓子店
その下には、
――人との縁と縁をつなぐ
と書かれていた。
「可愛いお店」
由美が嬉しそうに言う。
「入ってみる?」
「うん!」
二人は顔を見合わせ、店の扉を開けた。
カラン――。
「いらっしゃいませ」
その声を聞いた瞬間。
秀の足が、ほんの少しだけ止まった。
なぜだろう。
どこか懐かしい声だった。
けれど、その理由は分からない。
「わあ……美味しそう」
由美がショーケースを覗き込む。
苺のショートケーキ。
季節のフルーツタルト。
モンブラン。
そして、その中央に並べられたチーズケーキ。
「秀、どれにする?」
「うーん……」
秀はショーケースを見つめた。
なぜか、チーズケーキから目が離せない。
「俺、これにしようかな」
「チーズケーキ?」
「うん。なんとなく」
由美は笑った。
「じゃあ、私は苺のショートケーキにしようかな」
「いいね」
二人でケーキを選んでいると、厨房から店員の女性が出てきた。
「お決まりですか?」
結月だった。
顔を上げた瞬間。
結月の時間が止まった。
「……」
そこにいたのは、秀。
高校生の頃と比べて、少し大人びている。
でも、分かる。
何年経っても、分からないはずがない。
結月の胸が、大きく鳴った。
――秀。
心の中で名前を呼ぶ。
けれど、声にはしない。
「チーズケーキと、苺のショートケーキですね」
結月は笑顔を作った。
「はい」
秀は結月を見る。
なぜか、胸の奥がざわついた。
初めて会うはずなのに。
どこかで会ったことがあるような気がする。
「……店員さん」
「はい?」
「このチーズケーキって、お店のおすすめですか?」
「はい。昔から変わらない味なんです」
「昔から?」
「……ええ」
一瞬だけ、結月の声が揺れた。
でも、秀は気づかなかった。
「じゃあ、これでお願いします」
「かしこまりました」
結月はケーキを皿に乗せる。
その手つきを、秀はぼんやり眺めていた。
――何かを思い出しそうなのに、思い出せない。
「秀、こっち空いてるよ」
「うん」
由美に呼ばれ、秀は窓際の席へ向かった。
結月は二人の後ろ姿を見つめた。
秀の隣にいる女性。
仲の良さそうな二人。
胸の奥が、少しだけ痛む。
それでも結月は、何も言わなかった。
ただ、いつもの店員の顔で二人の前にケーキを置く。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
由美が笑顔で答える。
「いただきます」
秀もフォークを手に取った。
チーズケーキを一口。
「……」
秀の表情が変わった。
「どうしたの?」
由美が尋ねる。
「……懐かしい」
「懐かしい?」
「うん……なんだろう」
秀はもう一口、チーズケーキを食べた。
「この味……昔、食べたことがある気がする」
結月は厨房から、その言葉を聞いていた。
目を伏せる。
涙がこぼれそうになる。
それでも、彼女は気づかないふりをした。
「……ありがとうございます」
小さな声で、そう呟いた。
秀はまだ知らない。
目の前のチーズケーキを作った女性が――
自分の初恋の人だということを。
そして結月も、まだ知らない。
今日、この偶然の再会が二人の止まっていた時間を、もう一度動かしていくことを。
「この辺、静かでいいね」
由美が周りを見渡す。
「うん。少し休憩しようか」
秀がそう言ったとき、坂道の先に小さな店が見えた。
白い壁に、木の扉。
軒先には、可愛らしい看板が掛かっている。
むすび洋菓子店
その下には、
――人との縁と縁をつなぐ
と書かれていた。
「可愛いお店」
由美が嬉しそうに言う。
「入ってみる?」
「うん!」
二人は顔を見合わせ、店の扉を開けた。
カラン――。
「いらっしゃいませ」
その声を聞いた瞬間。
秀の足が、ほんの少しだけ止まった。
なぜだろう。
どこか懐かしい声だった。
けれど、その理由は分からない。
「わあ……美味しそう」
由美がショーケースを覗き込む。
苺のショートケーキ。
季節のフルーツタルト。
モンブラン。
そして、その中央に並べられたチーズケーキ。
「秀、どれにする?」
「うーん……」
秀はショーケースを見つめた。
なぜか、チーズケーキから目が離せない。
「俺、これにしようかな」
「チーズケーキ?」
「うん。なんとなく」
由美は笑った。
「じゃあ、私は苺のショートケーキにしようかな」
「いいね」
二人でケーキを選んでいると、厨房から店員の女性が出てきた。
「お決まりですか?」
結月だった。
顔を上げた瞬間。
結月の時間が止まった。
「……」
そこにいたのは、秀。
高校生の頃と比べて、少し大人びている。
でも、分かる。
何年経っても、分からないはずがない。
結月の胸が、大きく鳴った。
――秀。
心の中で名前を呼ぶ。
けれど、声にはしない。
「チーズケーキと、苺のショートケーキですね」
結月は笑顔を作った。
「はい」
秀は結月を見る。
なぜか、胸の奥がざわついた。
初めて会うはずなのに。
どこかで会ったことがあるような気がする。
「……店員さん」
「はい?」
「このチーズケーキって、お店のおすすめですか?」
「はい。昔から変わらない味なんです」
「昔から?」
「……ええ」
一瞬だけ、結月の声が揺れた。
でも、秀は気づかなかった。
「じゃあ、これでお願いします」
「かしこまりました」
結月はケーキを皿に乗せる。
その手つきを、秀はぼんやり眺めていた。
――何かを思い出しそうなのに、思い出せない。
「秀、こっち空いてるよ」
「うん」
由美に呼ばれ、秀は窓際の席へ向かった。
結月は二人の後ろ姿を見つめた。
秀の隣にいる女性。
仲の良さそうな二人。
胸の奥が、少しだけ痛む。
それでも結月は、何も言わなかった。
ただ、いつもの店員の顔で二人の前にケーキを置く。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
由美が笑顔で答える。
「いただきます」
秀もフォークを手に取った。
チーズケーキを一口。
「……」
秀の表情が変わった。
「どうしたの?」
由美が尋ねる。
「……懐かしい」
「懐かしい?」
「うん……なんだろう」
秀はもう一口、チーズケーキを食べた。
「この味……昔、食べたことがある気がする」
結月は厨房から、その言葉を聞いていた。
目を伏せる。
涙がこぼれそうになる。
それでも、彼女は気づかないふりをした。
「……ありがとうございます」
小さな声で、そう呟いた。
秀はまだ知らない。
目の前のチーズケーキを作った女性が――
自分の初恋の人だということを。
そして結月も、まだ知らない。
今日、この偶然の再会が二人の止まっていた時間を、もう一度動かしていくことを。

