あの日、青い海に君を置いてきた


「何見てんの?」
背後から、いきなり声がした。

「わっ!」

ナオはびくっとして振り返った。

そこに立っていたのは、三年生のヒカルだった。
「びっくりした!」
「こんなところで盗み聞き?」
「盗み聞きじゃないし」
「じゃあ何?」
「……見学」
「もっと悪いじゃん」

ヒカルはそう言って、職員室の中をちらっとのぞいた。
「ああ。アンナ先生か」
「すごかったんだよ」
ナオは小声で言った。

「みんなが練習するって言ってるのに、一人だけずっと危ないって言ってて。それで本当に雷が――」

「ナオ」
ヒカルが、急に声をひそめた。
「なに?」
ヒカルはもう一度、職員室の中のアンナ先生を見た。

そして言った。

「アンナ先生ってさ」
「うん」
「人、殺したことあるんだって」

ナオは息を止めた。
「……え?」
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。

さっきまで、アンナ先生がものすごくかっこよく見えていた。
自分たちを守ってくれる先生。
誰に嫌われても、「危険だ」と言える先生。

なのに、
ヒカルの一言だけが、頭の中に残った。

――人を、殺した?
ナオはもう一度、職員室の中を見た。
アンナ先生は、いつもと同じ顔をして立っている。

その横顔からは、何もわからなかった。