あの日、青い海に君を置いてきた


わたしは甲板の上で体育座りになった。
膝を抱える。
寒さ以上に、体中に痛みが走った。
吹きつける風が、濡れた体を突き刺す。

心まで突き刺してくる。

船は大きく揺れていた。
体のバランスを取るだけでも難しい。
歯がガチガチ鳴る。

うまく話せない。
「……ど、どこに……行くんですか?」

漁師が振り返った。
「あんたを医者に診せろって指示だ」
「え……」
「隣の港へ向かう。そこから病院に連れていくそうだ」

「嫌です」
「何?」
「わたしなんて……」
声が震えた。
「わたしなんて、どうでもいいから」

海を見る。

「先輩を探して!」
泣きじゃくる声は、激しい風にかき消された。
「お願いします……」
東の海には、もうオレンジ色のライフジャケットは見えない。

「先輩を……」
そこで、力が尽きた。

視界が暗くなる。
エンジンの音が遠くなった。
波の音も。
漁師の声も。

何もかもが遠ざかっていく。
最後に思ったのは、一つだけだった。

――航平先輩。
生きていて。

わたしの意識は、そこで途切れた。