あの日、青い海に君を置いてきた

波に隠れる。
また見える。
見失わないように、わたしは必死に目を凝らした。
「おい、しっかり船に上がれ!」

漁師が叫ぶ。
「もっとがんばれ! お前を助けたら、もう一人も助けるから!」
がんばりたい。
でも、
手にも足にも力が入らない。
自分の体なのに、まったく言うことをきかなかった。

「ほら!」
誰かがわたしのライフジャケットをつかんだ。
そのまま持ち上げられる。
体が船べりにぶつかった。
「うっ!」

痛い。
次の瞬間、わたしは甲板に転がり込んだ。

「先輩!」
すぐに起き上がろうとした。

でも、できなかった。
体に力が入らない。

それでも顔だけを上げて、東へ流されていく航平先輩を目で追った。
そのときだった。

海の中に、白く滑らかな背中が見えた。
一頭。
また一頭。
「……スナメリ」
クジラの仲間、スナメリだった。

白波の間から顔を出し、また海へ潜る。
その一頭が、航平先輩の近くを泳いでいる。

まるで寄り添うように。
……神様。

お願い。
わたしの航平先輩を救って。
漁船のエンジン音が大きくなった。
気づけば、この船には二人の漁師が乗っていた。

二人とも顔も腕も赤く日焼けしている。
髪は潮に焼けて、金色がかって見えた。
二人は荒れる海の上で、巧みに漁船を操る。
船首を東へ向けた。

航平先輩を追ってくれる。
「お願いします!」

わたしは叫んだ。
「お願いします!」
そのとき、一人の漁師が前方を見て大声を上げた。
「くるぞ!」
もう一人も叫ぶ。
「くるぞ、くるぞ!」

何が?

わたしは前を見た。
息をのんだ。

これまで見たこともないほど大きな波が、目の前に迫っていた。
漁師たちが身構える。
「つかまれ!」

バシャーーーーン!

船が大きく持ち上がった。
転覆する。
そう思った。

体が宙に浮いたようになり、次の瞬間、甲板へ叩きつけられる。
「うっ……!」

西から吹きつける風も、ますます強くなっていた。
風速十五メートル。
いや。

もっとあるかもしれない。
頬を叩かれる。
髪が逆立つ。
全身ずぶ濡れだった。

寒い。

ガタガタと震えがくる。
どこでぶつけたのか、全身が痛い。
立つことなんてできない。
座っていることさえできない。
船が大きく傾くたびに、わたしは甲板の上を転がった。

右へ。

左へ。

まるで芋虫みたいに。
先輩はもちろん。

わたしも。
この漁師さんたちも。
本当に生きて帰れるのだろうか。
風も波も、時間がたつほど強くなっている。

怖い。
でも、もう泣くことさえ忘れていた。
絶望していた。
間違いなく、このまま死ぬ。

そう思った。
「おい!」