樹はスマートフォンを取り出した。
「一応、お母さんに聞いてみる」
「うん」
凪沙は隣で待った。
樹は電話をかける。
「もしもし、お母さん?」
少し間を置いて、樹が話し始めた。
「今、凪沙と一緒にいるんだけど……」
樹は凪沙を見る。
「お昼、凪沙の家で食べていかないかって誘ってもらった」
少し照れながら続ける。
「関アジをご馳走してくれるって」
そして、少し迷うように、
「……いいのかな?」
と聞いた。
その様子を見ていた凪沙のおじいちゃんが、樹に声をかける。
「電話、ちょっと代わろうか」
「え?」
樹がおじいちゃんを見る。
「いいんですか?」
「おう」
樹はスマートフォンをおじいちゃんに渡した。
「もしもし?」
おじいちゃんが電話の向こうへ話しかける。
「三村さんのお母さんかな?」
少し相手の話を聞いてから、おじいちゃんは笑った。
「今日はうちで食べていきんしゃい」
樹がそばで聞いている。
「せっかく佐賀関まで来てくれたんやけん」
そして、優しい声で続ける。
「いつも凪沙と仲良くしてくれよるけんな。関アジくらい、遠慮せんで食べていき」
少し話したあと、
「はい、はい。じゃあ、そういうことで」
おじいちゃんは電話を切った。
そして、樹にスマートフォンを返す。
「ほら。いいって」
「……ありがとうございます」
樹はほっとしたように笑った。
「腹いっぱい食べり」
「はい」
三人は凪沙の家へ向かって歩き出した。
*
家の近くまで来ると、玄関の前に一台の車が停まっていた。
その横に、樹のお母さんが立っている。
「あれ……」
樹が驚いた顔をする。
「お母さん、来てたんだ」
「うん」
お母さんは笑った。
「初めて来る場所だったから、帰りも迎えに来ようと思って」
そして、凪沙とおじいちゃんに頭を下げる。
「こんにちは。今日はありがとうございます」
「いやいや」
おじいちゃんが笑う。
お母さんは少し照れたように続けた。
「それでね、樹を迎えに来ようと思って来たんだけど……」
「うん?」
「さっき、凪沙ちゃんのおじいちゃんにお昼ご飯に誘ってもらったからね」
お母さんは笑った。
「来ちゃった」
樹が目を丸くする。
「お母さんも食べるの?」
「いいでしょう?」
おじいちゃんが笑う。
「もちろんじゃ。関アジもあるけんな」
「ありがとうございます」
凪沙も笑った。
「じゃあ、みんなで食べよう」
「うん」
樹も嬉しそうに頷いた。
*
昼の食卓。
皿の上には、きれいに盛られた関アジの刺身が並んでいた。
「いただきます」
樹は少し緊張しながら、一切れを箸で取る。
口に入れる。
しばらく黙って味わった。
凪沙が笑いながら聞く。
「どう?」
樹は顔を上げる。
「……おいしい」
おじいちゃんが満足そうに笑った。
「そうじゃろ」
樹のお母さんも、息子の顔を見て笑う。
「よかったね、樹」
「うん」
樹はもう一切れ、箸を伸ばした。
窓の外には、朝初めて見た佐賀関の海が広がっている。
その海で獲れた関アジを、今、自分は凪沙の家で食べている。
樹は海を眺めながら、もう一度、関アジを口に運んだ。
「……やっぱり、おいしい」
凪沙は笑った。
「でしょう?」
おじいちゃんも嬉しそうに頷いた。
佐賀関の海は、樹にとって少しずつ、ただの「知らない場所」ではなくなっていた。
「一応、お母さんに聞いてみる」
「うん」
凪沙は隣で待った。
樹は電話をかける。
「もしもし、お母さん?」
少し間を置いて、樹が話し始めた。
「今、凪沙と一緒にいるんだけど……」
樹は凪沙を見る。
「お昼、凪沙の家で食べていかないかって誘ってもらった」
少し照れながら続ける。
「関アジをご馳走してくれるって」
そして、少し迷うように、
「……いいのかな?」
と聞いた。
その様子を見ていた凪沙のおじいちゃんが、樹に声をかける。
「電話、ちょっと代わろうか」
「え?」
樹がおじいちゃんを見る。
「いいんですか?」
「おう」
樹はスマートフォンをおじいちゃんに渡した。
「もしもし?」
おじいちゃんが電話の向こうへ話しかける。
「三村さんのお母さんかな?」
少し相手の話を聞いてから、おじいちゃんは笑った。
「今日はうちで食べていきんしゃい」
樹がそばで聞いている。
「せっかく佐賀関まで来てくれたんやけん」
そして、優しい声で続ける。
「いつも凪沙と仲良くしてくれよるけんな。関アジくらい、遠慮せんで食べていき」
少し話したあと、
「はい、はい。じゃあ、そういうことで」
おじいちゃんは電話を切った。
そして、樹にスマートフォンを返す。
「ほら。いいって」
「……ありがとうございます」
樹はほっとしたように笑った。
「腹いっぱい食べり」
「はい」
三人は凪沙の家へ向かって歩き出した。
*
家の近くまで来ると、玄関の前に一台の車が停まっていた。
その横に、樹のお母さんが立っている。
「あれ……」
樹が驚いた顔をする。
「お母さん、来てたんだ」
「うん」
お母さんは笑った。
「初めて来る場所だったから、帰りも迎えに来ようと思って」
そして、凪沙とおじいちゃんに頭を下げる。
「こんにちは。今日はありがとうございます」
「いやいや」
おじいちゃんが笑う。
お母さんは少し照れたように続けた。
「それでね、樹を迎えに来ようと思って来たんだけど……」
「うん?」
「さっき、凪沙ちゃんのおじいちゃんにお昼ご飯に誘ってもらったからね」
お母さんは笑った。
「来ちゃった」
樹が目を丸くする。
「お母さんも食べるの?」
「いいでしょう?」
おじいちゃんが笑う。
「もちろんじゃ。関アジもあるけんな」
「ありがとうございます」
凪沙も笑った。
「じゃあ、みんなで食べよう」
「うん」
樹も嬉しそうに頷いた。
*
昼の食卓。
皿の上には、きれいに盛られた関アジの刺身が並んでいた。
「いただきます」
樹は少し緊張しながら、一切れを箸で取る。
口に入れる。
しばらく黙って味わった。
凪沙が笑いながら聞く。
「どう?」
樹は顔を上げる。
「……おいしい」
おじいちゃんが満足そうに笑った。
「そうじゃろ」
樹のお母さんも、息子の顔を見て笑う。
「よかったね、樹」
「うん」
樹はもう一切れ、箸を伸ばした。
窓の外には、朝初めて見た佐賀関の海が広がっている。
その海で獲れた関アジを、今、自分は凪沙の家で食べている。
樹は海を眺めながら、もう一度、関アジを口に運んだ。
「……やっぱり、おいしい」
凪沙は笑った。
「でしょう?」
おじいちゃんも嬉しそうに頷いた。
佐賀関の海は、樹にとって少しずつ、ただの「知らない場所」ではなくなっていた。

