海から届いたお守り

樹はスマートフォンを取り出した。

「一応、お母さんに聞いてみる」

「うん」

凪沙は隣で待った。

樹は電話をかける。

「もしもし、お母さん?」

少し間を置いて、樹が話し始めた。

「今、凪沙と一緒にいるんだけど……」

樹は凪沙を見る。

「お昼、凪沙の家で食べていかないかって誘ってもらった」

少し照れながら続ける。

「関アジをご馳走してくれるって」

そして、少し迷うように、

「……いいのかな?」

と聞いた。

その様子を見ていた凪沙のおじいちゃんが、樹に声をかける。

「電話、ちょっと代わろうか」

「え?」

樹がおじいちゃんを見る。

「いいんですか?」

「おう」

樹はスマートフォンをおじいちゃんに渡した。

「もしもし?」

おじいちゃんが電話の向こうへ話しかける。

「三村さんのお母さんかな?」

少し相手の話を聞いてから、おじいちゃんは笑った。

「今日はうちで食べていきんしゃい」

樹がそばで聞いている。

「せっかく佐賀関まで来てくれたんやけん」

そして、優しい声で続ける。

「いつも凪沙と仲良くしてくれよるけんな。関アジくらい、遠慮せんで食べていき」

少し話したあと、

「はい、はい。じゃあ、そういうことで」

おじいちゃんは電話を切った。

そして、樹にスマートフォンを返す。

「ほら。いいって」

「……ありがとうございます」

樹はほっとしたように笑った。

「腹いっぱい食べり」

「はい」

三人は凪沙の家へ向かって歩き出した。



家の近くまで来ると、玄関の前に一台の車が停まっていた。

その横に、樹のお母さんが立っている。

「あれ……」

樹が驚いた顔をする。

「お母さん、来てたんだ」

「うん」

お母さんは笑った。

「初めて来る場所だったから、帰りも迎えに来ようと思って」

そして、凪沙とおじいちゃんに頭を下げる。

「こんにちは。今日はありがとうございます」

「いやいや」

おじいちゃんが笑う。

お母さんは少し照れたように続けた。

「それでね、樹を迎えに来ようと思って来たんだけど……」

「うん?」

「さっき、凪沙ちゃんのおじいちゃんにお昼ご飯に誘ってもらったからね」

お母さんは笑った。

「来ちゃった」

樹が目を丸くする。

「お母さんも食べるの?」

「いいでしょう?」

おじいちゃんが笑う。

「もちろんじゃ。関アジもあるけんな」

「ありがとうございます」

凪沙も笑った。

「じゃあ、みんなで食べよう」

「うん」

樹も嬉しそうに頷いた。



昼の食卓。

皿の上には、きれいに盛られた関アジの刺身が並んでいた。

「いただきます」

樹は少し緊張しながら、一切れを箸で取る。

口に入れる。

しばらく黙って味わった。

凪沙が笑いながら聞く。

「どう?」

樹は顔を上げる。

「……おいしい」

おじいちゃんが満足そうに笑った。

「そうじゃろ」

樹のお母さんも、息子の顔を見て笑う。

「よかったね、樹」

「うん」

樹はもう一切れ、箸を伸ばした。

窓の外には、朝初めて見た佐賀関の海が広がっている。

その海で獲れた関アジを、今、自分は凪沙の家で食べている。

樹は海を眺めながら、もう一度、関アジを口に運んだ。

「……やっぱり、おいしい」

凪沙は笑った。

「でしょう?」

おじいちゃんも嬉しそうに頷いた。

佐賀関の海は、樹にとって少しずつ、ただの「知らない場所」ではなくなっていた。