海から届いたお守り

高校三年生の夏。

進路も少しずつ決まり始め、樹は将来のことを考える時間が増えていた。

大学へ進学して、勉強して、卒業したら日鉄で働きたい。

そして、もう一つ。

樹の中には、ずっと変わらない気持ちがあった。

凪沙のことが好きだ。

これまで一緒に過ごしてきた時間。

笑ったことも、悩んだことも、苦しいときにそばにいたことも。

全部が大切な思い出だった。

だからこそ、これから先も凪沙を大切にしたい。

その日の夕方。

樹はおじいちゃんの家に来ていた。

凪沙はまだ帰ってきていない。

庭にいた竜樹を見つけると、樹は少し緊張しながら声をかけた。

「……お父さん」

「ん? どうした?」

「ちょっと相談があるんやけど」

竜樹が手を止めて樹を見る。

「おう。何でも言ってみ」

樹はしばらく黙っていた。

そして、意を決して口を開いた。

「俺……凪沙のことが好きなんよ」

竜樹は黙って聞いている。

「ずっと一緒におって、大事な存在になった」

「うん」

「これから大学に行って、仕事して……ちゃんと自分で生活できるようになって」

樹は一度息を吐いた。

「将来、凪沙を嫁に貰いたいと思っちょる」

竜樹は少し驚いたように樹を見る。

樹は緊張しながらも、竜樹の目を見た。

「……お父さん」

「ん?」

「凪沙を……俺に貰ってもいいですか」

竜樹はしばらく何も言わなかった。

樹は不安そうに待っている。

やがて竜樹が、ゆっくり口を開いた。

「樹」

「うん」

「凪沙のこと、本気で大事に思っちょるんやな」

「うん。本気です」

「まだ高校生やけん、今すぐ結婚って話じゃないのは分かっちょる」

「はい」

「それでも、将来のことをそこまで考えちょるんやな」

「うん」

竜樹は少し笑った。

「なら、俺から言うことは一つやな」

樹が顔を上げる。

「凪沙の気持ちを一番に考えなさい」

「はい」

「凪沙が何をしたいのか、どう生きたいのか。それをちゃんと聞いて、一緒に考えていけ」

「うん」

「それができるなら、俺は反対せん」

樹の表情が少し緩んだ。

「……ありがとうございます、お父さん」

「ただし」

竜樹が少しだけ真面目な顔になる。

「まずは自分のことをしっかりせえよ」

「はい」

「大学も頑張る。仕事も頑張る。自分で自分を支えられるようになってから、凪沙とこれからのことを考えればいい」

「分かった」

樹は深く頷いた。

「俺、頑張ります」

「おう」

竜樹は樹の肩を軽く叩いた。

「その気持ちは、凪沙にもいつか自分の口で伝えんとな」

「……うん」

樹は少し照れながら笑った。

そのとき、玄関のほうから声がした。

「ただいまー」

凪沙が帰ってきた。

樹と竜樹は顔を見合わせる。

「何話しよったん?」

凪沙が二人のところへやってくる。

樹は少し慌てながら答えた。

「……進路の話」

「ふーん?」

凪沙は不思議そうに二人を見る。

竜樹は何も言わず、少しだけ笑っていた。

樹の胸の中には、まだ凪沙には伝えていない大切な気持ちがあった。

いつか、自分の言葉でちゃんと伝える。

その日まで、まずは自分がしっかり歩いていこう。

そう心に決めた。