海から届いたお守り

離れでの暮らしが始まって、しばらく経った。

季節が巡り、二人は高校2年生に進級した。

そして、高校2年生になった春。

この日が、二人にとって初めて一緒に登校する朝だった。

「凪沙、もう準備できた?」

「うん。今行く」

凪沙が玄関から出てくる。

樹も鞄を肩にかけ、二人は並んで歩き始めた。

「なんか、変な感じするな」

「何が?」

「こうやって一緒に学校行くの」

「確かに。今まで一緒に行ったことなかったもんね」

凪沙が笑う。

「今日から2年生かぁ」

「早いな」

「ほんとやな」

二人は並んで歩きながら、新しい一年のことを話した。

庭を抜けると、振り返った先にはおじいちゃんの家。

その向こうには、朝の海が見えていた。

「行ってきます」

凪沙が声をかける。

「気をつけて行ってこいよー!」

おじいちゃんの声が返ってくる。

樹も振り返る。

「行ってきます!」

二人は並んで学校へ向かった。



夕方。

学校から帰ってくると、樹はそのまま凪沙とおじいちゃん、竜樹の家へ向かった。

「ただいまー」

「おかえり」

凪沙が玄関で迎える。

「今日、宿題多かったな」

「うん。居間で一緒にやろう」

二人は居間のテーブルに並んで座った。

学校の教科書とノートを広げる。

凪沙が問題を解いている横で、樹も黙々と勉強をしていた。

「ここ、どうするん?」

樹がノートを凪沙に見せる。

「ここは、こうやない?」

「あ、そうか」

「できた?」

「うん、できた」

二人は顔を見合わせて笑った。

しばらくすると、台所からおじいちゃんの声が聞こえてきた。

「そろそろご飯にするぞー」

「はーい!」

凪沙が返事をする。

樹も教科書を閉じた。

「今日もじいちゃんのご飯?」

「うん。一緒に食べよ」

二人は居間のテーブルを片付け、おじいちゃんと一緒に夕食を食べ始めた。

「いただきます」

「いただきます」

「はい、食べよ」

三人で食卓を囲む。

学校の話をしたり、今日あったことを話したり。

そんな時間が、いつの間にか自然になっていた。

そのとき――。

玄関の扉が開いた。

「ただいま」

竜樹が帰ってきた。

居間を覗くと、樹がいる。

「おっ、樹、来てたか」

「うん」

「凪沙と勉強しよったんか?」

「うん。今、ご飯食べよる」

「そうか、そうか」

竜樹は笑った。

「じゃあ、俺も食べようかな」

「まだあるぞ」

おじいちゃんが言う。

「助かるわ」

竜樹も席についた。

その頃、仕事を終えた碧は、いつもより遅い時間になっていた。

大分駅のほうへ仕事が移ってから、帰ってくる時間も遅くなっている。

それでも、樹から言われていたことを思い出し、おじいちゃんの家へ向かった。

玄関を開ける。

「こんばんは」

「おう、碧さん。お疲れさん」

「遅くにすみません」

「いいんよ」

碧は頭を下げた。

「今日もありがとうございました」

おじいちゃんは笑った。

「もういいっちゃ。何回ありがとうっち言うんっちゃ」

そして、碧の顔を見る。

「疲れたやろ」

「……はい」

「なら、座り」

「え?」

「ご飯食べよ」

碧は少し驚いた。

「でも、もう遅いですし……」

「いいけん。仕事終わって腹減っちょるやろ」

おじいちゃんは、碧の分のご飯を準備し始めた。

「温めるけん、座っとき」

「……ありがとうございます」

おじいちゃんが笑う。

「またありがとう言いよる」

碧も思わず笑った。

「はい……」

そして碧も、みんながいる食卓についた。

凪沙と樹は並んで座り、おじいちゃんがいて、竜樹がいて、そこへ仕事を終えた碧も加わった。

いつの間にか、この家には人が集まるようになっていた。

樹にとっても、凪沙にとっても。

そして碧にとっても。

疲れた日に帰ってきて、「ご飯食べよ」と言ってもらえる場所。

それが、少しずつ新しい日常になっていた。