海から届いたお守り

離れでの暮らしが始まって、しばらく経った。

季節が巡り、二人は高校2年生に進級した。

そして、高校2年生になった春。

この日が、二人にとって初めて一緒に登校する朝だった。

「凪沙、もう準備できた?」

「うん。今行く」

凪沙が玄関から出てくる。

樹も鞄を肩にかけ、二人は並んで歩き始めた。

「なんか、変な感じするな」

「何が?」

「こうやって一緒に学校行くの」

「確かに。今まで一緒に行ったことなかったもんね」

凪沙が笑う。

「今日から2年生かぁ」

「早いな」

「ほんとやな」

二人は並んで歩きながら、新しい一年のことを話した。

庭を抜けると、振り返った先にはおじいちゃんの家。

その向こうには、朝の海が見えていた。

「行ってきます」

凪沙が声をかける。

「気をつけて行ってこいよー!」

おじいちゃんの声が返ってくる。

樹も振り返る。

「行ってきます!」

二人は並んで学校へ向かった。

*

夕方。

学校から帰ってくると、樹はそのまま凪沙とおじいちゃん、竜樹の家へ向かった。

「ただいまー」

「おかえり」

凪沙が玄関で迎える。

「今日、宿題多かったな」

「うん。居間で一緒にやろう」

二人は居間のテーブルに並んで座った。

学校の教科書とノートを広げる。

凪沙が問題を解いている横で、樹も黙々と勉強をしていた。

「ここ、どうするん?」

樹がノートを凪沙に見せる。

「ここは、こうやない?」

「あ、そうか」

「できた?」

「うん、できた」

二人は顔を見合わせて笑った。

しばらくすると、台所からおじいちゃんの声が聞こえてきた。

「そろそろご飯にするぞー」

「はーい!」

凪沙が返事をする。

樹も教科書を閉じた。

「今日もじいちゃんのご飯?」

「うん。一緒に食べよ」

二人は居間のテーブルを片付け、おじいちゃんと一緒に夕食を食べ始めた。

「いただきます」

「いただきます」

「はい、食べよ」

三人で食卓を囲む。

学校の話をしたり、今日あったことを話したり。

そんな時間が、いつの間にか自然になっていた。

そのとき――。

玄関の扉が開いた。

「ただいま」

竜樹が帰ってきた。

居間を覗くと、樹がいる。

「おっ、樹、来てたか」

「うん」

「凪沙と勉強しよったんか?」

「うん。今、ご飯食べよる」

「そうか、そうか」

竜樹は笑った。

「じゃあ、俺も食べようかな」

「まだあるぞ」

おじいちゃんが言う。

「助かるわ」

竜樹も席についた。

その頃、仕事を終えた碧は、いつもより遅い時間になっていた。

大分駅のほうへ仕事が移ってから、帰ってくる時間も遅くなっている。

それでも、樹から言われていたことを思い出し、おじいちゃんの家へ向かった。

玄関を開ける。

「こんばんは」

「おう、碧さん。お疲れさん」

「遅くにすみません」

「いいんよ」

碧は頭を下げた。

「今日もありがとうございました」

おじいちゃんは笑った。

「もういいっちゃ。何回ありがとうっち言うんっちゃ」

そして、碧の顔を見る。

「疲れたやろ」

「……はい」

「なら、座り」

「え?」

「ご飯食べよ」

碧は少し驚いた。

「でも、もう遅いですし……」

「いいけん。仕事終わって腹減っちょるやろ」

おじいちゃんは、碧の分のご飯を準備し始めた。

「温めるけん、座っとき」

「……ありがとうございます」

おじいちゃんが笑う。

「またありがとう言いよる」

碧も思わず笑った。

「はい……」

そして碧も、みんながいる食卓についた。

凪沙と樹は並んで座り、おじいちゃんがいて、竜樹がいて、そこへ仕事を終えた碧も加わった。

いつの間にか、この家には人が集まるようになっていた。

樹にとっても、凪沙にとっても。

そして碧にとっても。

疲れた日に帰ってきて、「ご飯食べよ」と言ってもらえる場所。

それが、少しずつ新しい日常になっていた。