数日後。
凪沙の家の前に、一台の車が止まった。
車から降りてきたのは、樹とその母親だった。
「こんにちは」
樹の母親が、深く頭を下げる。
その隣で、樹も頭を下げた。
「こんにちは」
凪沙のおじいちゃんが玄関から出てくる。
「おう。よく来たな」
「はい」
碧は少し緊張したような顔で、おじいちゃんを見る。
そして、もう一度頭を下げた。
「今回は、本当にありがとうございます」
「そんなにかしこまらんでいい」
「でも……」
碧は申し訳なさそうに笑った。
「急なことだったのに、本当にすみません」
おじいちゃんは首を横に振る。
「困ったときはお互い様じゃ」
「ありがとうございます」
碧は樹を見る。
「家も急いで探しますので」
そして、おじいちゃんに向き直る。
「短い間ですが、どうぞよろしくお願いします」
「こっちこそ」
おじいちゃんは笑った。
「家が見つかるまで、ゆっくりしていけばいい」
「はい。本当にありがとうございます」
樹も小さく頭を下げる。
「僕からも……ありがとうございます」
「樹くん」
おじいちゃんが笑う。
「そんな顔せんでいい。ここはもう、お前が来てもいい場所じゃ」
樹は少し驚いたように顔を上げた。
「……はい」
その言葉を聞いて、凪沙も笑った。
*
荷物を運びながら、樹がぽつりと言った。
「今日から……生石樹(いくしいつき)になるんだよね」
「うん」
碧が答える。
「お母さんも生石碧になる」
これまで名乗っていた「三村」という名字が、今日から変わる。
樹は少しだけ寂しそうに、自分の名前を口にした。
「生石……樹」
凪沙はその横で聞いていた。
「生石樹……」
樹が振り返る。
「何?」
「ううん」
凪沙は笑った。
「なんか、まだ慣れないね」
「僕も」
二人で笑う。
家の中から、おじいちゃんの声が聞こえた。
「樹くーん! 荷物、こっちでいいぞ!」
「はい!」
樹が返事をする。
そして、海の見える家へ入っていった。
山で育った少年が、しばらくの間、海のそばで暮らす。
その始まりの日だった。
凪沙の家の前に、一台の車が止まった。
車から降りてきたのは、樹とその母親だった。
「こんにちは」
樹の母親が、深く頭を下げる。
その隣で、樹も頭を下げた。
「こんにちは」
凪沙のおじいちゃんが玄関から出てくる。
「おう。よく来たな」
「はい」
碧は少し緊張したような顔で、おじいちゃんを見る。
そして、もう一度頭を下げた。
「今回は、本当にありがとうございます」
「そんなにかしこまらんでいい」
「でも……」
碧は申し訳なさそうに笑った。
「急なことだったのに、本当にすみません」
おじいちゃんは首を横に振る。
「困ったときはお互い様じゃ」
「ありがとうございます」
碧は樹を見る。
「家も急いで探しますので」
そして、おじいちゃんに向き直る。
「短い間ですが、どうぞよろしくお願いします」
「こっちこそ」
おじいちゃんは笑った。
「家が見つかるまで、ゆっくりしていけばいい」
「はい。本当にありがとうございます」
樹も小さく頭を下げる。
「僕からも……ありがとうございます」
「樹くん」
おじいちゃんが笑う。
「そんな顔せんでいい。ここはもう、お前が来てもいい場所じゃ」
樹は少し驚いたように顔を上げた。
「……はい」
その言葉を聞いて、凪沙も笑った。
*
荷物を運びながら、樹がぽつりと言った。
「今日から……生石樹(いくしいつき)になるんだよね」
「うん」
碧が答える。
「お母さんも生石碧になる」
これまで名乗っていた「三村」という名字が、今日から変わる。
樹は少しだけ寂しそうに、自分の名前を口にした。
「生石……樹」
凪沙はその横で聞いていた。
「生石樹……」
樹が振り返る。
「何?」
「ううん」
凪沙は笑った。
「なんか、まだ慣れないね」
「僕も」
二人で笑う。
家の中から、おじいちゃんの声が聞こえた。
「樹くーん! 荷物、こっちでいいぞ!」
「はい!」
樹が返事をする。
そして、海の見える家へ入っていった。
山で育った少年が、しばらくの間、海のそばで暮らす。
その始まりの日だった。

