海から届いたお守り

夏休みが終わって、しばらく経った頃。

凪沙は、樹からのLINEを見ていた。

いつもなら学校で会えるはずなのに、樹は三週間ほど学校を休んでいた。

心配になって、凪沙はLINEを送った。

《樹、大丈夫?
学校、ずっと休んでるけど……》

しばらくして、返事が届いた。

《ごめん。ちょっと色々あって》

《お母さんと一緒に、今、家を探してる》

凪沙は画面を見つめた。

《家?》

返事は少し時間が経ってから届いた。

《お父さんとお母さんが離婚することになって》

《お母さんと一緒に野津原を出ることになった》

凪沙の胸がきゅっとなる。

そして、もう一通。

《急に出ていくことになったから、引っ越し先を急いで探さないといけなくて》

凪沙はスマートフォンを握った。

樹がいなくなる。

野津原から。

あの少年自然の家で出会った男の子。

シーグラスをお守りにしてくれた男の子。

高校で、もう一度出会えた男の子。

凪沙はすぐにおじいちゃんのところへ向かった。

「おじいちゃん」

「ん?」

「樹がね……」

凪沙は事情を話した。

おじいちゃんは黙って聞いていた。

「それで、引っ越す家がまだ見つかってないみたい」

少し迷ってから、凪沙が言う。

「ねえ、おじいちゃん」

「なんじゃ?」

「家が見つかるまで、うちにいてもらうのって……だめかな」

おじいちゃんは一瞬だけ凪沙を見る。

そして、すぐに答えた。

「いいぞ」

「……え?」

「もちろんいい」

凪沙の顔が明るくなる。

「ほんとに?」

「困っちょるんじゃろ?」

おじいちゃんは静かに頷いた。

「だったら、助けてやればいい」

そして、少し笑った。

「樹くんのお母さんも、樹くんも、よくしてくれたじゃろ」

「うん」

「貝殻のキーホルダーまで作ってくれたんじゃろ?」

凪沙は手元のキーホルダーを見る。

「うん……」

「だったら、こっちもよくしてやらんとな」

おじいちゃんは凪沙の頭をぽんと撫でた。

「困ったときに助けてやらんと、人間じゃろう」

凪沙は、少し目を潤ませながら頷いた。

「……うん」

すぐにスマートフォンを取り出す。

樹にLINEを送る。

《おじいちゃんに相談した》

《家が見つかるまで、うちにいていいって》

送信ボタンを押す。

しばらくして、既読がついた。

そして――

《……本当に?》

凪沙は笑った。

《うん。本当に》

《おじいちゃんが「いいぞ」って》

画面の向こうで、樹がどんな顔をしているのか。

凪沙には分からなかった。

けれど、その返事が届く。

《ありがとう、凪沙》

その短い言葉を見つめながら、凪沙は思った。

山を離れることになった樹が、

今度は海のそばで暮らす。

あの日、海を知らなかった少年が。

自分の家の前にある海で、しばらく暮らすことになる。

山の少年と海の少女の距離が、今度は本当に近くなろうとしていた。