電子の歌姫は今宵も言葉を紡ぐ【完】

「あ⋯⋯うちわを忘れてしまった⋯⋯。せっかくねいろ様の生歌が聞けるかもしれないというのに⋯⋯っ!」



⋯⋯みんなが、大きなビルを前にしていても平然といつものように過ごしていること。

そ、それになんだかVIPルームだとか貸し切りだとか⋯⋯なんだか普通に過ごしていたら聞かないような言葉がたくさん聞こえる気がするな⋯⋯あはは。

みんなにとっては、これが普通なのかな⋯⋯?

いたって普通の家庭で生まれ育った私にとっては、なんだか知らない世界を歩いているような気分。



「千星ちゃん、迷っちゃうかもしれないし、僕の後ろについてきてね」

「う、うんっ!」



結構分かれ道が多い廊下だったけど、みんなの足に迷いはなかった。

きっと、何回も来ているんだろうな⋯⋯。

私はいつも家から近いところ……小さめのカラオケに行ったり、部屋で練習したりしているから、こんなに広い建物に来るのも分かれ道が多いところに来るのも新鮮だった。



「ここだよ。⋯⋯じゃあ、開けるね」



いかにも高級そうなドアを輝くんが開けると、そこにはたくさんのモニターやマイクがあった。