「え……」
凪は言葉に出すことができない。頭から血が下がるのがわかる。足元がふらつき、思わず机に手をついた。
翠は悲しむ表情で、そっと凪の耳元で言う。
「朔也さん、戦死されたのよ」
「嘘……よ」
凪はうまく息ができず、胸に手を当てる。
「……残念なことだった。だが、麒麟堂はお前が背負う必要はない」
源一郎の言葉に凪は、はっと顔をあげる。
「軍医との縁談は悪い話ではない。凪、お前も自分の将来を考えなければならん」
源一郎はそう言いながら、最後まで凪と目を合わせなかった。
凪の目から、大粒の涙がぽろぽろと流れる。それを拭き取ることもできなかった。
「私はっ、嫌です!!」
それだけをいうと、凪は奥座敷へと走った。部屋に入ると扉を閉め、兄の薬研の前に座り込んだ。
「……兄様、なぜ……っ」
朔也が最後に手を上げたとき、朝日の光を照り返した金ボタンを思い出す。
凪は揺れる視界に映る薬研にそっと触れる。そして、それを大事に抱えた。
「絶対に嫌っ。兄様が与えてくれたこの居場所は離れない!」
そして、さらに薬研を強く抱きしめる。
「麒麟堂は、私が守る!!」
凪は泣き腫らした目で、そう口に出していた。



