軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜




 瞳の光を失いかけていた凪は振り返る。
 逆光でその姿はよく見えない。
 背が高く、細身の男性。
 深緑の軍服を着て、腰に軍刀を差している
 軍帽をそっと取ると、前髪がはらりと一束落ちた。
 凪はそのすらりとした立ち姿に、つい見入ってしまう。

 一歩二歩と前に出ると、逆光に邪魔された顔が見えてくる。
 その顔をはっきりと捉えた瞬間、凪は思わず足をすくませ、後退りしてしまった。
 軍医の左頬には、白く引きつった筋状の瘢痕が、はっきりと刻まれていた。
(本当に……傷がある……っ)
 凪の鼓動がどくどくと速くなる。声も出ず、目も逸らすことができない。
 だが、傷さえなければ見惚れるほどの端正な顔の男だった。
 その傷と鋭い瞳が、人を簡単に近づけない空気をまとっていた。

「安藤将臣でございます」

 将臣は機械のように頭を軽く下げた。上げたその瞳には、温度を感じない。
 凪は気づけば息を止めている。
 将臣が真っ直ぐ凪を見据えているからだ。

「桐谷凪殿、ですね?」

 凪は喉が渇き、小さく頷いた。
 将臣の口元が、ほんのわずかに動いたように見えた。
 凪の背に冷えが走る。
 軍帽を胸に当てたまま、将臣は一歩だけ距離を詰める。


「あなたを迎えに来ました」