嵯峨野邸での萬代一家とのひと悶着から、ひと月ほどが経った。
そして、食中毒で倒れたお義母様たちの体調は、今ではすっかりもとどおりになったようだ。
食中毒の一件、そして嵯峨野邸での出来事のあと、屋敷の空気は少しずつ変わり始めていた。
とはいえ、私に向けられる視線が一気に温かくなるわけもなく、まだどこかぎこちない距離感が続いている。
ある日の午後、私は縁側から中庭に降り、庭木の手入れをする庭師の様子を眺めていた。
すると、ふと女性の姿が視界に入り、誰なのかとそちらへ視線を向ける。
中庭の一角、クチナシの木のそばにしゃがみ込んでいたのは、千草さんだった。
彼女は蕾のひとつをじっと見つめていて、私の気配にはまだ気づいていないようだ。
「千草さん」
声をかけると、彼女はびくりと肩を震わせてこちらを振り返った。
気まずそうに眉尻を下げて視線を泳がせる姿は、いつもの高慢な態度とは違う。
「……あ、お義姉様」
その呼び方に、私は内心驚いてしまった。
この家に嫁いでから今まで一度も、そんなふうに呼ばれたことはなかったから。
「身体はもう大丈夫ですか? あれから顔色も良さそうですけれど」
そう尋ねると、千草さんは膝の上でぎゅっと手を握りしめ、うつむいたまま黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙のあと、彼女はようやく絞り出すように口を開く。
そして、食中毒で倒れたお義母様たちの体調は、今ではすっかりもとどおりになったようだ。
食中毒の一件、そして嵯峨野邸での出来事のあと、屋敷の空気は少しずつ変わり始めていた。
とはいえ、私に向けられる視線が一気に温かくなるわけもなく、まだどこかぎこちない距離感が続いている。
ある日の午後、私は縁側から中庭に降り、庭木の手入れをする庭師の様子を眺めていた。
すると、ふと女性の姿が視界に入り、誰なのかとそちらへ視線を向ける。
中庭の一角、クチナシの木のそばにしゃがみ込んでいたのは、千草さんだった。
彼女は蕾のひとつをじっと見つめていて、私の気配にはまだ気づいていないようだ。
「千草さん」
声をかけると、彼女はびくりと肩を震わせてこちらを振り返った。
気まずそうに眉尻を下げて視線を泳がせる姿は、いつもの高慢な態度とは違う。
「……あ、お義姉様」
その呼び方に、私は内心驚いてしまった。
この家に嫁いでから今まで一度も、そんなふうに呼ばれたことはなかったから。
「身体はもう大丈夫ですか? あれから顔色も良さそうですけれど」
そう尋ねると、千草さんは膝の上でぎゅっと手を握りしめ、うつむいたまま黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙のあと、彼女はようやく絞り出すように口を開く。



