爽やかな朝の光がプールサイドを眩しく照らし出す中、慧に連れられてやってきたのは、青く透き通るプライベートプールだった。



「え、ここ……?」



驚くひまりに、慧は少し照れくさそうに笑いながらスタッフから渡されたバッグを差し出した。



「実はさ、朝デートが決まったとき、スタッフさんに『水着持ってきて』って言われてさ。ひまりの分も用意してもらったんだ」



「えっ、聞いてないよー! 私、すっぴんだし、前髪だってもしかして……!」



慌てて両手で額を押さえるひまりだったが、慧はそんな彼女を見て「ふっ」と優しく笑った。



「すっぴんでも、前髪がどうなっても、可愛いから大丈夫だよ」




「もうっ、そういうことサラッと言っちゃうんだから……!」




真っ赤になりながらも、ひまりは用意されていた黒のビキニへと着替えるために控え室へと急いだ。



しばらくして、水着姿のひまりがプールサイドへと戻ってきた。



すっぴんで、髪もラフにまとめただけの飾り気のない姿だったが、太陽の光を浴びた彼女の笑顔は誰よりも輝いていた。



「お待たせ……って、冷たっ!」



ひまりがプールサイドに近づいた瞬間、慧が手ですくい上げた水飛沫が優しく彼女の頬を濡らした。



「うわっ、慧! いきなり何す~る~の~!」



「へへっ、隙あり!」



キャッキャと声を上げながら、ひまりも負けじと両手で水をすくい、慧めがけて思い切り投げ返す。



バシャバシャと水面を叩く音が、静かな朝の空気に響き渡った。



普段なら「前髪が崩れちゃう」「メイクが落ちちゃう」なんて気にしてしまうひまりだったが、この瞬間はそんなことどうでもよかった。



目の前にいるのは、中学の頃からずっと変わらない、でも今は特別な存在になりつつある慧。



彼の前では、飾らない素の自分のままで思いっきり笑っていられた。



「ハァ……、めっちゃ楽しい……!」



水中でプカプカと浮きながら、ひまりは心の底からそう呟いた。



顔についた水滴を手の甲で拭いながら、ふと横を見ると、慧がとても愛おしそうに自分を見つめていることに気づく。



「どうしたの? そんなに見つめて」



「ううん。こうやって笑ってるひまりを見てたらさ、やっぱり俺、ずっと前から好きだったんだなって改めて思って」



まっすぐな瞳で告げられた言葉に、胸の奥がキュッと締め付けられる。



冷たいはずの水の中なのに、ふたりの間だけはほんのりと温かい空気に包まれていた。



「……私も、すごく楽しいよ、慧」



照れくさくてこれ以上は言えなくて、ひまりはまたわざと水飛沫を上げて慧に飛びついた。



青空の下、水飛沫とともに弾けた笑顔と高鳴る鼓動は、ふたりにとってかけがえのない、一生忘れられない宝物の時間となっていた。



そう、これが最後だった。
心から笑える、2人だけの時間は。