通りすがりの俺様

「……一度だけ、家政婦さんの都合がつかなくて、たわむれに作ってくれたことがある。
 たぶん、お前の弁当を食べたら、母の味がするだろう」

「水内さんのお母様とは気が合いそうです」

 まあ、今後、お会いする予定はないですけど、と思いながら、いずるはそう言った。

「ところで、今日行っていいか。
 俺かお前の兄分の荷物は捨てて、スペース空けたんだろう?」

 兄は兄分の荷物捨てなくても、もともと我が家の住人ですよね。

「駄目です」
「何故だ」

「忙しいので」
「なんの用で?」

「今、年賀状書いてるんで」
「……すごい断り方だな」

 どうせ印刷だろう?
と言われ、

「一応、ひとりひとりにメッセージ手書きで書いてますよ。
 まあ、昔に比べて送る人減りましたけど」

 年賀状でしかやりとりのない人もますもんね、といずるは言った。

「それは感心だな。
 なんて書いてるんだ?」

「……『寒いですね』とか?
 時事ネタですね」

「それ、時事ネタか……?」
 まあ、なんでも直筆でちょっと書いてあると、懐かしくて嬉しいよな、と一鷹は言う。