先輩、好きになってください

第九話 知らなかった一面

昼休み。

日向は圭に頼まれたものを届けるため、二年生の教室がある階へ向かっていた。

廊下を歩いていると、少し先に人だかりができているのが見えた。

「……なんだ?」

なんとなく足を止める。

その中心にいたのは――

「綾花先輩?」

綾花だった。

その前には、少し困ったような顔をした女子生徒がいる。

「どうしたの?」

綾花が優しく声をかける。

「……部活のことでちょっと」

「そっか」

綾花は急かすことなく、その子の話を聞いている。

「それは大変だったね」

「うん……」

「でも、ちゃんと自分の気持ち伝えたほうがいいと思うよ」

「でも、迷惑かなって」

「迷惑じゃないよ」

綾花は笑った。

「言わないまま後悔するより、ちゃんと伝えてみたほうがいいと思う」

「……うん」

「大丈夫。ちゃんと話せば、きっと分かってくれるよ」

女子生徒が小さく頷く。

「ありがとう、綾花先輩」

「ううん。頑張ってね」

「はい!」

女子生徒が去っていく。

綾花はその背中を見送った。

日向はその場から動けなかった。

いつもの綾花とは少し違って見えた。

普段は笑っていて、ふわっとしていて。

ちょっと天然で。

自分が何を言われても、いつも笑ってかわしていく。

でも。

「……ちゃんとしてるんだ」

思わず口からこぼれた。

「何が?」

「うわっ」

突然後ろから声をかけられて、日向が振り返る。

そこには圭がいた。

「圭……」

「何してんの?」

「いや、別に」

「……綾花先輩見てた?」

「見てない」

「いや、めっちゃ見てたじゃん」

「うるさい」

圭がニヤニヤする。

「何?また好きになった?」

「……」

日向は少し黙った。

「……うん」

「え、認めるん?」

「だって」

日向はもう一度、綾花を見る。

「可愛いだけじゃないじゃん」

「は?」

「ちゃんとしてるし」

「今さら?」

「俺、知らなかった」

圭は少し笑った。

「まあ、綾花先輩そういう人だからな」

「……もっと知りたい」

「何を?」

「先輩のこと」

日向はそう言って、少し笑った。

「もっと知りたい」

その日の放課後。

廊下で綾花とすれ違った。

「あ、松宮くん」

「綾花先輩」

「今日もお疲れさま」

「お疲れさまです」

いつものように笑う綾花。

日向は少しだけ見つめる。

「……何?」

「いや」

「?」

「先輩って、ちゃんとしてますよね」

「え?」

綾花が目を丸くする。

「急にどうしたの?」

「なんとなく」

「変なの笑」

綾花は笑って、そのまま歩いていく。

日向はその背中を見ながら、小さく笑った。

――やっぱり。

もっと知りたい。

可愛いところも。

優しいところも。

まだ自分の知らないところも。