先輩、好きになってください

第七話 どこが好きなの?

放課後。

綾花は部活へ向かい、凛花は教室で帰る準備をしていた。

そのとき、廊下を歩いている日向が目に入った。

「松宮くん」

「ん?」

日向が振り返る。

「藤森先輩」

「ちょっといい?」

「もちろん」

凛花は日向を廊下の端へ呼ぶ。

「綾花のことで聞きたいことがある」

「はい」

凛花は少しだけ日向を見る。

「松宮くんって、綾花のどこが好きなの?」

日向は少しも迷わなかった。

「全部です」

「……全部?」

「はい」

凛花が少し驚く。

日向はそのまま続けた。

「最初に会ったときから、可愛いなって思いました」

「うん」

「でも、話してみたら、思ってたよりずっとしっかりしてて」

「……うん」

「誰にでも優しいし、話してると楽しいし」

日向は少しだけ笑う。

「笑ったとき、めちゃくちゃ可愛いし」

「あと、なんか……一緒にいると落ち着くんですよね」

「落ち着く?」

「はい」

日向は少し照れたように笑った。

「俺、普段こんなに一人の人のこと考えないんですけど」

「……」

「先輩のことは、ずっと考えちゃう」

凛花は黙って聞いている。

「朝会ったら嬉しいし」

「うん」

「話せたら嬉しいし」

「うん」

「他の男の人と話してたら、普通に嫌だし」

「……嫉妬するんだ?」

「しますよ」

日向は即答した。

「めちゃくちゃします」

凛花は少し笑った。

「チャラ男なのに?」

「チャラ男だからって、好きな人に嫉妬しないわけじゃないですよ」

「……それもそうか」

日向は少しだけ黙ってから、凛花を見る。

「だから、遊びとかじゃないです」

凛花はしばらく黙っていた。

そして、

「……でも、聞いていい?」

「はい?」

「この間、一緒に帰った時って何かあった?」

日向の顔が少し緩む。

「ああ……ありました」

「何?」

「俺から聞いたんです」

「何を?」

日向は昨日のことを思い出す。

「先輩に、俺のこと好き?って」

「……え」

凛花が目を丸くする。

「そしたら」

日向は笑いながら話す。

「先輩、何も考えずに『好きだよ』って言ったんですよ」

「……あや、言いそう」

「俺も一瞬、何が起きたか分かんなくて」

日向は少し笑う。

「『え!?』ってなりました」

「ふふっ」

「そしたら先輩が」

日向は少し悔しそうな顔をする。

「『後輩としてね』って」

凛花が吹き出した。

「やっぱり!!」

「笑わないでくださいよ」

「だって、あやすぎるんだもん笑」

「俺、普通に喜んだんですよ?」

「うんうん笑」

「めちゃくちゃ嬉しかったのに……」

日向はため息をつく。

「一瞬で落とされました」

凛花は笑いながらも、少しだけ日向を見る。

「でも、それでも好きなんだ?」

「はい」

今度も即答だった。

「むしろ、もっと好きになりました」

「……なんで?」

「いつか、その『後輩として』を変えたいから」

凛花は黙った。

日向はまっすぐ前を見ながら言う。

「俺、先輩にちゃんと男として見てもらいたいです」

凛花はしばらく日向を見つめる。

そして、小さく息を吐いた。

「……分かった」

「信じてくれます?」

「少しだけね」

「少しだけ?」

「まだ松宮くんのこと、よく知らないから」

「じゃあ、これから知ってください」

「……ふふ」

凛花が笑う。

「そういうところは、やっぱりチャラいね」

「え、今の結構真面目だったんですけど」

「分かってるよ」

凛花は少しだけ笑って、

「でも、思ってたよりちゃんとしてた」

「ありがとうございます」

「ただし」

凛花の表情が真剣になる。

「綾花を泣かせたら、絶対許さないから」

「分かってます」

日向は迷わず答えた。

「俺が泣かせたくないですから」

そのとき。

「りーん!」

廊下の向こうから綾花の声が聞こえた。

「あや!」

綾花が二人のところまで駆けてくる。

「何話してたの?」

凛花と日向が顔を見合わせる。

「秘密」

「えー!」

綾花が不満そうな顔をする。

「松宮くんも?」

「はい、秘密です」

「もう、二人して何なの笑」

綾花が笑う。

その笑顔を見ながら、凛花は思った。

――この子を好きになるのも、ちょっと分かるかも。

そして日向は。

――やっぱり、この笑顔が好きだ。

そう思いながら、綾花の隣を歩いた。