先輩、好きになってください

第五話 先輩、ずるい

放課後。

日向は部活を終えて、昇降口へ向かっていた。

すると、見覚えのある後ろ姿が目に入る。

「……先輩?」

綾花だった。

一人で靴を履き替えている。

「先輩」

声をかけると、綾花が振り返った。

「あ、松宮くん」

「一人ですか?」

「うん。りん、今日は用事あるんだって」

「じゃあ、俺と帰りません?」

「いいよ」

「……え、いいんですか?」

「うん。なんで?」

「いや、もっと断られるかと思って」

「なんで?笑」

「先輩、俺のこと警戒してるかなって」

「全然してないよ」

「……それはそれで複雑だな」

「ふふっ」

二人で昇降口を出る。

並んで歩きながら、日向はちらっと綾花を見る。

「先輩」

「ん?」

「俺のこと、どう思ってます?」

「どうって?」

「俺のこと好き?」

綾花は少しも迷わなかった。

「好きだよ」

「え!?」

思わず日向が立ち止まる。

綾花も足を止めて、きょとんとする。

「え、何?」

「いや……」

日向の顔が一気に明るくなる。

「今、好きって言いました?」

「言ったよ?」

「え、マジ?」

「うん」

「……俺のこと?」

「そうだよ?」

日向は完全に舞い上がっていた。

――やっと。

やっと先輩が自分のことを――。

「後輩としてね笑」

「…………」

日向の動きが止まる。

綾花は楽しそうに笑っている。

「松宮くん、ほんと面白いね笑」

「……先輩」

「ん?」

「ずるい」

「え?」

「今のはずるいって」

「何が?笑」

「俺、普通に本気で喜んだんですけど」

「ふふ、ごめんごめん」

「絶対思ってないでしょ」

「思ってるよ笑」

「……ほんとかな」

日向は少し拗ねたように笑った。

綾花はそんな日向を見て、また笑う。

「でも、松宮くんのこと好きだよ?」

「……」

「面白いし、話してて楽しいし」

「……先輩」

「なに?」

「それ以上言ったら、俺ほんとに勘違いしますよ」

「え?」

「なんでもないです」

日向は前を向いた。

――やっぱり。

この人には敵わない。

チャラい言葉ならいくらでも言える。

女の子を口説くことだって、今まで何とも思わなかった。

なのに。

この先輩に「好き」と言われただけで、本気で嬉しくなって。

「後輩として」と付け足されただけで、こんなにも悔しくなる。

「……絶対、振り向かせよ」

「ん?何か言った?」

「何も」

「ふふ、変なの」

綾花が笑う。

その笑顔を見ながら、日向も笑った。

まだ、先輩にとって自分はただの後輩。

それでも。

いつかその「好き」を、違う意味に変えてみせる。

そう、心の中で決めた。