昼休み。
綾花と凛花は、圭のいる教室へ向かっていた。
「圭いるかな?」
「いるでしょ。あの子、昼休みいつもここにいるじゃん」
「そっか」
教室の入り口から中を覗く。
「あ、いた」
綾花が笑って手を振る。
「圭ー!」
「綾花先輩!」
圭がすぐに気づいて、二人のところへやってくる。
「どうしたんですか?」
「ちょっと顔見に来ただけ〜」
「なんですかそれ笑」
「りんもいるよ」
「凛花先輩も。こんにちは」
「こんにちは、圭くん」
圭と凛花は、綾花を通じて前から仲がいい。
そんな二人が話している横で、凛花はふと教室の中へ目を向けた。
そして、一人の男子で視線が止まる。
友達と話しながら、楽しそうに笑っている。
「……ねえ、あや」
「ん?」
「あの子って……」
「どの子?」
「ほら、あそこ」
綾花が凛花の視線を追う。
「ああ、松宮くん?」
「……松宮?」
凛花が少し目を細める。
「もしかして、松宮日向?」
「うん、そうだよ」
圭が答える。
凛花は一瞬だけ黙った。
顔を見たことはなかった。
でも、その名前なら知っている。
「……あのチャラくて有名な松宮日向?」
「有名って笑」
圭が笑う。
「まあ、そうですね。女の子とよく話してるんで」
「やっぱり?」
凛花がもう一度日向を見る。
そのとき。
「……俺、なんか言われてます?」
日向がこちらを見ていた。
「あ」
凛花と目が合う。
日向がこちらへ歩いてくる。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「俺、松宮日向です」
「知ってる」
「え?」
凛花は少し笑った。
「名前だけね。顔は初めて見た」
「そうなんですか?」
「うん。噂はよく聞いてたから」
「どんな噂です?」
「それは秘密」
凛花が意味ありげに笑う。
「でも、なるほどね」
「何がですか?」
「……思ってたよりチャラそう」
「よく言われます」
日向も笑う。
そんな二人を見て、圭が口を挟む。
「日向、凛花先輩。綾花先輩の親友」
「初めまして、藤森凛花〈ふじもりりんか〉です」
「松宮日向です。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そのとき。
日向の視線が綾花へ向く。
「先輩」
「ん?」
「今日も可愛いですね」
「また言ってる笑」
綾花は楽しそうに笑う。
「松宮くんって、本当にそういうこと言うの好きだね」
「好きですよ」
「ふふ」
綾花はまったく気にしていない。
その様子を見て、凛花は小さく息を吐いた。
そして。
「……あや、圭くん」
「ん?」
「ちょっと先に廊下行ってて」
「え?」
「すぐ行くから」
「分かった」
綾花と圭が先に教室の外へ出ていく。
二人の姿が見えなくなったところで。
凛花は、日向を見る。
さっきまでの笑顔とは違う。
「……松宮くん」
「はい」
「綾花のこと、本気?」
「本気ですよ」
「昨日会ったばっかで?」
「一目惚れなんで」
「……」
凛花は腕を組む。
「私、松宮くんのこと何も知らないけど」
「はい」
「正直、今のところ信用してない」
「まあ、そうですよね」
「綾花って、ああ見えて結構鈍感だから」
「知ってます」
「……知ってるんだ」
「はい。全然俺のこと意識してないんで」
日向が苦笑する。
凛花は少しだけ表情を緩めた。
けれど、すぐに真剣な顔に戻る。
「だから、遊びなら近づかないで」
「遊びじゃないです」
「本当に?」
「はい」
「もし綾花を傷つけたら?」
日向は少しだけ黙った。
それから、凛花をまっすぐ見る。
「そのときは、ちゃんと俺が責任取ります」
「……」
「俺、あの人のこと本気で好きなんで」
凛花は日向を見つめたまま、少しだけ笑った。
「……そっか」
「信じてくれます?」
「まだ」
即答だった。
「でも」
凛花は一歩近づく。
「綾花を泣かせたら、私は絶対に松宮くんの味方しないから」
「分かりました」
「それと」
「はい?」
「私、恋バナ大好きだから」
凛花はニヤッと笑う。
「本当に綾花のこと好きなら、ちょっとくらい応援してあげてもいいよ」
「ありがとうございます」
「ただし、綾花には内緒」
「了解です」
「じゃあ、頑張って」
「はい」
凛花は日向に背を向ける。
「……あ、そうだ」
振り返って、もう一度日向を見る。
「私、綾花のことめちゃくちゃ大事にしてるから」
「俺も、大事にします」
「……それならいい」
凛花はそう言って、先に廊下へ向かった。
日向も少し遅れて、その後を追う。
教室の外では、綾花と圭が何も知らずに二人を待っていた。
「りん、遅かったね」
「ごめんごめん」
「何話してたんですか?」
圭が聞く。
「んー?」
凛花は日向を見る。
日向も凛花を見る。
「ちょっと、恋バナ」
「え?」
綾花が首を傾げる。
「私も聞きたい」
「それはまた今度ね、あや」
「えー、気になる」
綾花が頬を膨らませる。
凛花は笑った。
――やっぱり。
この子は何も分かってない。
そして日向は。
そんな綾花を見ながら、楽しそうに笑っていた。
その日の昼休み。
二人の間には、綾花にはまだ知られていない、小さな秘密ができた。
綾花と凛花は、圭のいる教室へ向かっていた。
「圭いるかな?」
「いるでしょ。あの子、昼休みいつもここにいるじゃん」
「そっか」
教室の入り口から中を覗く。
「あ、いた」
綾花が笑って手を振る。
「圭ー!」
「綾花先輩!」
圭がすぐに気づいて、二人のところへやってくる。
「どうしたんですか?」
「ちょっと顔見に来ただけ〜」
「なんですかそれ笑」
「りんもいるよ」
「凛花先輩も。こんにちは」
「こんにちは、圭くん」
圭と凛花は、綾花を通じて前から仲がいい。
そんな二人が話している横で、凛花はふと教室の中へ目を向けた。
そして、一人の男子で視線が止まる。
友達と話しながら、楽しそうに笑っている。
「……ねえ、あや」
「ん?」
「あの子って……」
「どの子?」
「ほら、あそこ」
綾花が凛花の視線を追う。
「ああ、松宮くん?」
「……松宮?」
凛花が少し目を細める。
「もしかして、松宮日向?」
「うん、そうだよ」
圭が答える。
凛花は一瞬だけ黙った。
顔を見たことはなかった。
でも、その名前なら知っている。
「……あのチャラくて有名な松宮日向?」
「有名って笑」
圭が笑う。
「まあ、そうですね。女の子とよく話してるんで」
「やっぱり?」
凛花がもう一度日向を見る。
そのとき。
「……俺、なんか言われてます?」
日向がこちらを見ていた。
「あ」
凛花と目が合う。
日向がこちらへ歩いてくる。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「俺、松宮日向です」
「知ってる」
「え?」
凛花は少し笑った。
「名前だけね。顔は初めて見た」
「そうなんですか?」
「うん。噂はよく聞いてたから」
「どんな噂です?」
「それは秘密」
凛花が意味ありげに笑う。
「でも、なるほどね」
「何がですか?」
「……思ってたよりチャラそう」
「よく言われます」
日向も笑う。
そんな二人を見て、圭が口を挟む。
「日向、凛花先輩。綾花先輩の親友」
「初めまして、藤森凛花〈ふじもりりんか〉です」
「松宮日向です。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そのとき。
日向の視線が綾花へ向く。
「先輩」
「ん?」
「今日も可愛いですね」
「また言ってる笑」
綾花は楽しそうに笑う。
「松宮くんって、本当にそういうこと言うの好きだね」
「好きですよ」
「ふふ」
綾花はまったく気にしていない。
その様子を見て、凛花は小さく息を吐いた。
そして。
「……あや、圭くん」
「ん?」
「ちょっと先に廊下行ってて」
「え?」
「すぐ行くから」
「分かった」
綾花と圭が先に教室の外へ出ていく。
二人の姿が見えなくなったところで。
凛花は、日向を見る。
さっきまでの笑顔とは違う。
「……松宮くん」
「はい」
「綾花のこと、本気?」
「本気ですよ」
「昨日会ったばっかで?」
「一目惚れなんで」
「……」
凛花は腕を組む。
「私、松宮くんのこと何も知らないけど」
「はい」
「正直、今のところ信用してない」
「まあ、そうですよね」
「綾花って、ああ見えて結構鈍感だから」
「知ってます」
「……知ってるんだ」
「はい。全然俺のこと意識してないんで」
日向が苦笑する。
凛花は少しだけ表情を緩めた。
けれど、すぐに真剣な顔に戻る。
「だから、遊びなら近づかないで」
「遊びじゃないです」
「本当に?」
「はい」
「もし綾花を傷つけたら?」
日向は少しだけ黙った。
それから、凛花をまっすぐ見る。
「そのときは、ちゃんと俺が責任取ります」
「……」
「俺、あの人のこと本気で好きなんで」
凛花は日向を見つめたまま、少しだけ笑った。
「……そっか」
「信じてくれます?」
「まだ」
即答だった。
「でも」
凛花は一歩近づく。
「綾花を泣かせたら、私は絶対に松宮くんの味方しないから」
「分かりました」
「それと」
「はい?」
「私、恋バナ大好きだから」
凛花はニヤッと笑う。
「本当に綾花のこと好きなら、ちょっとくらい応援してあげてもいいよ」
「ありがとうございます」
「ただし、綾花には内緒」
「了解です」
「じゃあ、頑張って」
「はい」
凛花は日向に背を向ける。
「……あ、そうだ」
振り返って、もう一度日向を見る。
「私、綾花のことめちゃくちゃ大事にしてるから」
「俺も、大事にします」
「……それならいい」
凛花はそう言って、先に廊下へ向かった。
日向も少し遅れて、その後を追う。
教室の外では、綾花と圭が何も知らずに二人を待っていた。
「りん、遅かったね」
「ごめんごめん」
「何話してたんですか?」
圭が聞く。
「んー?」
凛花は日向を見る。
日向も凛花を見る。
「ちょっと、恋バナ」
「え?」
綾花が首を傾げる。
「私も聞きたい」
「それはまた今度ね、あや」
「えー、気になる」
綾花が頬を膨らませる。
凛花は笑った。
――やっぱり。
この子は何も分かってない。
そして日向は。
そんな綾花を見ながら、楽しそうに笑っていた。
その日の昼休み。
二人の間には、綾花にはまだ知られていない、小さな秘密ができた。



