先輩、好きになってください

第四話 あのチャラ男

昼休み。

綾花と凛花は、圭のいる教室へ向かっていた。

「圭いるかな?」

「いるでしょ。あの子、昼休みいつもここにいるじゃん」

「そっか」

教室の入り口から中を覗く。

「あ、いた」

綾花が笑って手を振る。

「圭ー!」

「綾花先輩!」

圭がすぐに気づいて、二人のところへやってくる。

「どうしたんですか?」

「ちょっと顔見に来ただけ〜」

「なんですかそれ笑」

「りんもいるよ」

「凛花先輩も。こんにちは」

「こんにちは、圭くん」

圭と凛花は、綾花を通じて前から仲がいい。

そんな二人が話している横で、凛花はふと教室の中へ目を向けた。

そして、一人の男子で視線が止まる。

友達と話しながら、楽しそうに笑っている。

「……ねえ、あや」

「ん?」

「あの子って……」

「どの子?」

「ほら、あそこ」

綾花が凛花の視線を追う。

「ああ、松宮くん?」

「……松宮?」

凛花が少し目を細める。

「もしかして、松宮日向?」

「うん、そうだよ」

圭が答える。

凛花は一瞬だけ黙った。

顔を見たことはなかった。

でも、その名前なら知っている。

「……あのチャラくて有名な松宮日向?」

「有名って笑」

圭が笑う。

「まあ、そうですね。女の子とよく話してるんで」

「やっぱり?」

凛花がもう一度日向を見る。

そのとき。

「……俺、なんか言われてます?」

日向がこちらを見ていた。

「あ」

凛花と目が合う。

日向がこちらへ歩いてくる。

「こんにちは」

「……こんにちは」

「俺、松宮日向です」

「知ってる」

「え?」

凛花は少し笑った。

「名前だけね。顔は初めて見た」

「そうなんですか?」

「うん。噂はよく聞いてたから」

「どんな噂です?」

「それは秘密」

凛花が意味ありげに笑う。

「でも、なるほどね」

「何がですか?」

「……思ってたよりチャラそう」

「よく言われます」

日向も笑う。

そんな二人を見て、圭が口を挟む。

「日向、凛花先輩。綾花先輩の親友」

「初めまして、藤森凛花です」

「松宮日向です。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

そのとき。

日向の視線が綾花へ向く。

「先輩」

「ん?」

「今日も可愛いですね」

「また言ってる笑」

綾花は楽しそうに笑う。

「松宮くんって、本当にそういうこと言うの好きだね」

「好きですよ」

「ふふ」

綾花はまったく気にしていない。

その様子を見て、凛花は小さく息を吐いた。

そして。

「……あや、圭くん」

「ん?」

「ちょっと先に廊下行ってて」

「え?」

「すぐ行くから」

「分かった」

綾花と圭が先に教室の外へ出ていく。

二人の姿が見えなくなったところで。

凛花は、日向を見る。

さっきまでの笑顔とは違う。

「……松宮くん」

「はい」

「綾花のこと、本気?」

「本気ですよ」

「昨日会ったばっかで?」

「一目惚れなんで」

「……」

凛花は腕を組む。

「私、松宮くんのこと何も知らないけど」

「はい」

「正直、今のところ信用してない」

「まあ、そうですよね」

「綾花って、ああ見えて結構鈍感だから」

「知ってます」

「……知ってるんだ」

「はい。全然俺のこと意識してないんで」

日向が苦笑する。

凛花は少しだけ表情を緩めた。

けれど、すぐに真剣な顔に戻る。

「だから、遊びなら近づかないで」

「遊びじゃないです」

「本当に?」

「はい」

「もし綾花を傷つけたら?」

日向は少しだけ黙った。

それから、凛花をまっすぐ見る。

「そのときは、ちゃんと俺が責任取ります」

「……」

「俺、あの人のこと本気で好きなんで」

凛花は日向を見つめたまま、少しだけ笑った。

「……そっか」

「信じてくれます?」

「まだ」

即答だった。

「でも」

凛花は一歩近づく。

「綾花を泣かせたら、私は絶対に松宮くんの味方しないから」

「分かりました」

「それと」

「はい?」

「私、恋バナ大好きだから」

凛花はニヤッと笑う。

「本当に綾花のこと好きなら、ちょっとくらい応援してあげてもいいよ」

「ありがとうございます」

「ただし、綾花には内緒」

「了解です」

「じゃあ、頑張って」

「はい」

凛花は日向に背を向ける。

「……あ、そうだ」

振り返って、もう一度日向を見る。

「私、綾花のことめちゃくちゃ大事にしてるから」

「俺も、大事にします」

「……それならいい」

凛花はそう言って、先に廊下へ向かった。

日向も少し遅れて、その後を追う。

教室の外では、綾花と圭が何も知らずに二人を待っていた。

「りん、遅かったね」

「ごめんごめん」

「何話してたんですか?」

圭が聞く。

「んー?」

凛花は日向を見る。

日向も凛花を見る。

「ちょっと、恋バナ」

「え?」

綾花が首を傾げる。

「私も聞きたい」

「それはまた今度ね、あや」

「えー、気になる」

綾花が頬を膨らませる。

凛花は笑った。

――やっぱり。

この子は何も分かってない。

そして日向は。

そんな綾花を見ながら、楽しそうに笑っていた。

その日の昼休み。

二人の間には、綾花にはまだ知られていない、小さな秘密ができた。