先輩、好きになってください

第三話 あやは、ほんとに鈍い

放課後。

「りん、はやくー!」

「ちょっと待ってよあや」

教室で荷物をまとめながら、綾花と凛花はいつものように話していた。

「今日さ、聞いてよ〜」

「なに?」

「この前言ってた人から連絡きた」

「え、あの人!?」

「そうそう」

凛花はスマホを見ながら、楽しそうに笑う。

「で、なんて来たの?」

「『今度ご飯行かない?』だって」

「え、いいじゃん!」

「でしょ?」

「いつ行くの?」

「まだ決めてない。あやも一緒に来る?」

「え、私?」

「うん」

「私はいいよ〜、りん二人っきりで楽しんで!」

そんな話をしながら、二人は廊下を歩く。

そのとき。

「あ」

綾花がふと足を止めた。

「どうしたの?」

「昨日話した後輩くん」

凛花が綾花の視線を追う。

少し離れたところに、日向と圭がいた。

「松宮くん?」

「うん」

日向も綾花に気づいた。

「あ、先輩」

軽く手を上げる。

「松宮くん、またね」

「先輩、今から帰るんですか?」

「うん」

「じゃあ一緒に帰りません?」

「ごめん、今日はりんと帰るの」

「そっか」

日向は少し残念そうに笑う。

「じゃあ、また明日」

「うん。またね」

綾花が笑って手を振る。

日向も手を振り返す。

二人が別れたあと。

凛花がぽつりと言った。

「……あや」

「ん?」

「あの子、あやのこと好きじゃない?」

「え?」

綾花がきょとんとする。

「なんで?」

「なんでって……」

凛花は呆れたように綾花を見る。

「毎回可愛いって言ってくるんでしょ?」

「うん」

「彼氏いるか聞かれたんでしょ?」

「うん」

「立候補していいですって言われたんでしょ?」

「うん」

「……それ、好きじゃん」

「えー?」

綾花は首を傾げる。

「でも松宮くんって、チャラそうじゃん」

「まあ、そうだけど」

「だから、冗談かなって」

「いやいやいや」

凛花が足を止める。

「冗談で何回も言う?」

「……言う人もいるんじゃない?」

「いるかもしれないけど、あの子は違うと思う」

「そうかなあ」

綾花は本気で分からないという顔をしている。

凛花は大きくため息をついた。

「……あやってさ」

「なに?」

「ほんっと鈍感だよね」

「え、そう?」

「そう」

「でも私、そんなモテないよ?」

「…………」

凛花は一瞬黙った。

そして、呆れたように笑う。

「それ、本気で言ってる?」

「うん」

「……もういいや」

「え、なんで笑」

「恋バナ大好きな私でも、あやの恋愛だけは難易度高すぎる」

「ふふ、なにそれ」

綾花は楽しそうに笑う。

凛花もつられて笑った。

けれど。

凛花は知っている。

綾花は、自分が思っている以上にモテる。

そして――

さっきの一年生が、ただの「面白い後輩」ではないことも。

「ねえ、あや」

「ん?」

「今度、松宮くんの話もっと聞かせてよ」

「え?なんで?」

「恋バナ好きだから」

「ふふ、りんらしい」

「でしょ?」

二人は笑いながら、夕暮れの廊下を歩いていった。