翌朝。
日向はいつもより少しだけ早く学校に着いた。
特に理由はない。
……はずだった。
「眠……」
欠伸をしながら下駄箱へ向かう。
上履きに履き替えようとした、そのとき。
「……あ」
後ろから声が聞こえた。
振り返る。
そこにいたのは――
「松宮くんだ」
昨日の先輩。
齋藤綾花だった。
「おはよ」
綾花が笑う。
「……おはようございます」
一瞬、日向の動きが止まる。
昨日会ったばかりなのに。
自分から話しかけようと思っていたのに。
まさか向こうから声をかけてくるなんて思っていなかった。
「昨日ぶりだね」
「そうですね」
「朝早いね?」
「先輩こそ」
「私はいつもこのくらいだよ」
綾花はそう言いながら、靴を履き替える。
日向はその横顔を見ながら、ふっと笑った。
「先輩」
「ん?」
「朝から会えるとか、今日ついてるかも」
「何それ笑」
「だって昨日も会えたし」
「昨日は私が圭のところに行っただけでしょ?」
「それでも会えたじゃないですか」
「ふふ、そうだね」
綾花は楽しそうに笑う。
日向は少しだけ距離を縮めた。
「先輩、今日も可愛いですね」
「朝からそれ言う?笑」
「本当のことなんで」
「はいはい」
「またそれ?」
「だって松宮くん、ほんと口が上手なんだもん」
「先輩には本気ですって」
「はいはい、本気ね」
「……信じてないでしょ」
「うん、まだね笑」
「じゃあ、信じてもらえるまで言います」
「頑張って〜」
綾花は軽く手を振る。
「じゃあ、またね。松宮くん」
「はい。また」
綾花が廊下を歩いていく。
日向はその背中を見ながら、しばらく動かなかった。
「……朝からずる」
小さく呟いて、ようやく教室へ向かう。
教室に入ると、すでに圭が席に座っていた。
「お、日向。おはよ」
「おはよ」
「なんか今日、機嫌よくね?」
「別に」
「いや、顔に出てるけど」
「……朝、綾花先輩に会った」
「は?」
圭が目を丸くする。
「下駄箱で」
「マジ?」
「うん」
「何話したの?」
「普通に。『おはよ』って」
「それだけ?」
「あと、可愛いって言った」
「お前ほんと懲りないな笑」
「だって可愛いんだから仕方ないじゃん」
「はいはい」
「それ、昨日からみんなに言われてんだけど」
圭は笑いながら、
「まあ、頑張れよ」
と言った。
日向は席に座りながら、さっきの綾花の笑顔を思い出す。
――『あ、松宮くんだ。おはよ』
たったそれだけ。
たったそれだけなのに。
今日は朝から、ずっと機嫌がいい。
そんな自分が、少し悔しかった。
日向はいつもより少しだけ早く学校に着いた。
特に理由はない。
……はずだった。
「眠……」
欠伸をしながら下駄箱へ向かう。
上履きに履き替えようとした、そのとき。
「……あ」
後ろから声が聞こえた。
振り返る。
そこにいたのは――
「松宮くんだ」
昨日の先輩。
齋藤綾花だった。
「おはよ」
綾花が笑う。
「……おはようございます」
一瞬、日向の動きが止まる。
昨日会ったばかりなのに。
自分から話しかけようと思っていたのに。
まさか向こうから声をかけてくるなんて思っていなかった。
「昨日ぶりだね」
「そうですね」
「朝早いね?」
「先輩こそ」
「私はいつもこのくらいだよ」
綾花はそう言いながら、靴を履き替える。
日向はその横顔を見ながら、ふっと笑った。
「先輩」
「ん?」
「朝から会えるとか、今日ついてるかも」
「何それ笑」
「だって昨日も会えたし」
「昨日は私が圭のところに行っただけでしょ?」
「それでも会えたじゃないですか」
「ふふ、そうだね」
綾花は楽しそうに笑う。
日向は少しだけ距離を縮めた。
「先輩、今日も可愛いですね」
「朝からそれ言う?笑」
「本当のことなんで」
「はいはい」
「またそれ?」
「だって松宮くん、ほんと口が上手なんだもん」
「先輩には本気ですって」
「はいはい、本気ね」
「……信じてないでしょ」
「うん、まだね笑」
「じゃあ、信じてもらえるまで言います」
「頑張って〜」
綾花は軽く手を振る。
「じゃあ、またね。松宮くん」
「はい。また」
綾花が廊下を歩いていく。
日向はその背中を見ながら、しばらく動かなかった。
「……朝からずる」
小さく呟いて、ようやく教室へ向かう。
教室に入ると、すでに圭が席に座っていた。
「お、日向。おはよ」
「おはよ」
「なんか今日、機嫌よくね?」
「別に」
「いや、顔に出てるけど」
「……朝、綾花先輩に会った」
「は?」
圭が目を丸くする。
「下駄箱で」
「マジ?」
「うん」
「何話したの?」
「普通に。『おはよ』って」
「それだけ?」
「あと、可愛いって言った」
「お前ほんと懲りないな笑」
「だって可愛いんだから仕方ないじゃん」
「はいはい」
「それ、昨日からみんなに言われてんだけど」
圭は笑いながら、
「まあ、頑張れよ」
と言った。
日向は席に座りながら、さっきの綾花の笑顔を思い出す。
――『あ、松宮くんだ。おはよ』
たったそれだけ。
たったそれだけなのに。
今日は朝から、ずっと機嫌がいい。
そんな自分が、少し悔しかった。



