先輩、好きになってください

朝。

校庭には、いつもよりたくさんの生徒が集まっていた。

「ねえ、あや。これどう?」

凛花が赤いはちまきを頭に巻きながら、鏡を覗く。

「かわいい!」

「ほんと?」

「うん!あやもやってみよ」

「私も?」

「せっかくだし!」

二人で髪を少しアレンジして、はちまきを結ぶ。

「できた!」

「どう?」

「めっちゃかわいい!」

「りんもかわいいよ」

「でしょ?笑」

二人で笑い合う。

「じゃあ、行こっか」

「うん!」

*

体育祭が始まった。

開会式が終わり、各クラスがそれぞれの場所へ移動する。

綾花が友達と話していると、

「綾花先輩」

「ん?」

振り返る。

日向だった。

「おはよう、日向くん」

「おはようございます」

日向は綾花を見て、少し黙る。

「……?」

「今日、雰囲気違いますね」

「え?」

「髪型も」

日向が少し笑う。

「かわいいです」

「……ありがとう?」

綾花は照れながら笑った。

「じゃあ、俺行きますね」

「うん、頑張ってね」

日向が去っていく。

その少し後。

「綾花」

「湊くん!」

湊が近づいてくる。

「今日、なんか雰囲気違うね」

「ほんと?」

「うん。かわいい」

「ありがとう!」

綾花は嬉しそうに笑う。

――今日は、いつもより少しだけ特別な日。

*

午前の競技が進んでいく。

そして。

「次、騎馬戦!」

男子の騎馬がグラウンドへ入ってくる。

日向もその中にいた。

「日向!」

圭が声をかける。

「行くぞ!」

「おう!」

騎馬戦が始まる。

そして――

日向の前に現れたのは。

「……神谷先輩」

「松宮くん」

二人の騎馬が向かい合う。

「負けませんよ」

日向が笑う。

「俺も負けるつもりないよ」

湊も笑う。

周りには聞こえないくらいの声で。

「……綾花のこと」

「……」

「譲るつもりないから」

日向の目が変わる。

「俺もです」

次の瞬間。

二つの騎馬がぶつかった。

体育祭の歓声の中。

二人だけは、真剣だった。

*

午後。

次の競技は借り物競走。

「位置について!」

選手たちが並ぶ。

日向もその中にいた。

「よーい!」

パンッ!

一斉に走り出す。

日向が紙を拾う。

「……」

紙を開く。

そこに書かれていたのは。

『好きな人』

「……え」

日向の目が止まる。

顔を上げる。

少し離れたところに、綾花がいる。

友達と話しながら笑っている。

日向は一瞬だけ迷って。

そのまま綾花のところへ走っていく。

「……先輩!」

「え?」

「ちょっと来てください!」

「え、私?」

「はい!」

日向が綾花の手を取って、ゴールへ向かう。

「え、ちょっと待って日向くん!?」

「すみません!」

二人でゴールへ駆け込む。

周りから歓声が上がる。

「借り物は!?」

係の生徒が紙を見る。

「……『好きな人』!」

「え!?」

綾花が驚く。

日向は少し照れながら笑った。

「……俺、これしか思いつかなかったんで」

「え、どういうこと?」

「……秘密です」

*

体育祭が終わったあと。

校舎へ戻る途中。

「日向くん」

「はい?」

「さっきの借り物競走……」

「はい」

「私、借りちゃって大丈夫だったの?」

「……」

日向は少し笑った。

「先輩」

「ん?」

「借りちゃってすみませんでした」

「え?」

「でも」

少しだけ照れたように笑う。

「俺、あのお題見た瞬間、先輩しか思いつかなかったんで」

「……」

綾花の頬が、少しだけ赤くなる。

「……そっか」

「はい」

「……ありがとう」

「どういたしまして」

二人は並んで歩く。

綾花は何も言わなかった。

でも。

胸の奥が、また少しだけ熱くなっていた。

――昨日より。

ほんの少し。

日向くんのことが、気になる。