放課後。
部活を終えた日向が体育館を出ようとしたときだった。
「松宮くん」
聞き覚えのある声に振り返る。
「……神谷先輩」
そこに湊が立っていた。
「ちょっといい?」
「はい」
二人は体育館の端まで歩く。
「昨日のことなんだけど」
「昨日?」
「うん。帰り道のこと」
湊は少し笑った。
「俺、綾花のこと好きなんだ」
「……」
「だから、松宮くんにもちゃんと言っておこうと思って」
日向は少しだけ目を細める。
「……俺も、綾花先輩のこと好きです」
「やっぱりね」
「はい」
「じゃあ、遠慮しない」
「俺もです」
二人の間に、静かな緊張が走る。
少しして、湊がふっと笑った。
「でもさ」
「はい?」
「俺は湊くんなんだけど、松宮くんは苗字なんだね」
「……」
その言葉に、日向の表情が止まる。
「綾花、俺のこと『湊くん』って呼ぶから」
「……そうですね」
「松宮くんは、ずっと『綾花先輩』だよね」
「まあ……」
「それって、結構大きいと思うよ」
湊はそう言って笑った。
「じゃあ、俺はこれで」
「……はい」
湊が体育館へ戻っていく。
日向はその背中を見ながら、小さく息を吐いた。
――確かに。
日向はその場から動けずにいた。
「……湊くん、か」
小さく呟く。
別に、名前で呼ばれていること自体が羨ましいわけじゃない。
……いや。
羨ましい。
めちゃくちゃ羨ましい。
俺だって。
「……俺も名前で呼ばれたい」
そう呟いた瞬間。
「松宮くん?」
「……え?」
聞き覚えのある声。
振り返ると、体育館の入り口に綾花が立っていた。
「綾花先輩……?」
「どうしたの?こんなところで」
「いや、ちょっと神谷先輩と話してて」
「湊くんと?」
「はい」
綾花は何も気にせず、日向の隣まで歩いてくる。
「そっか」
「……先輩」
「ん?」
日向は少し迷ってから口を開いた。
「俺のことって……」
「うん?」
「名前で呼んでくれないんですか?」
「……え?」
綾花が目を丸くする。
「だって、神谷先輩は湊くんじゃないですか」
「ああ……」
「俺はずっと松宮くんですよね」
「そうだね」
「……俺も名前で呼んでほしいです」
綾花は少し考えてから、ふっと笑った。
「じゃあ……日向くん?」
「……!」
思わず黙る。
「どう?」
「……いいです」
「ふふっ」
「めっちゃいいです」
綾花が笑う。
「じゃあこれから日向くんね」
「はい」
そのとき。
「綾花ー!」
少し離れたところから、凛花の声が聞こえた。
「あ、りん!」
綾花が振り返る。
「先行っててー!」
「分かったー!」
凛花が去っていく。
「じゃあ、私も帰ろうかな」
「……俺も一緒に帰っていいですか?」
「もちろん」
二人で学校を出る。
夕方の道を、並んで歩く。
「ねえ、日向くん」
「はい?」
「今日なんか嬉しそうだね」
「……分かります?」
「うん」
日向は少し笑った。
「先輩に名前で呼んでもらえたからです」
「そんなに?」
「そんなにです」
「ふふっ。じゃあいっぱい呼ぼうかな」
「……お願いします」
綾花が隣で笑う。
「日向くん」
「はい」
「日向くん」
「……はい」
「ふふっ、返事するんだ笑」
「だって嬉しいんで」
綾花は楽しそうに笑った。
その横顔を見ながら、日向も笑う。
――一つ、距離が縮まった。
そう思った。
でも。
まだ「後輩」なのは変わらない。
だから。
いつか。
名前を呼ばれるだけじゃなくて。
一人の男として、好きになってもらいたい。
そう思いながら、日向は綾花の隣を歩いた。
部活を終えた日向が体育館を出ようとしたときだった。
「松宮くん」
聞き覚えのある声に振り返る。
「……神谷先輩」
そこに湊が立っていた。
「ちょっといい?」
「はい」
二人は体育館の端まで歩く。
「昨日のことなんだけど」
「昨日?」
「うん。帰り道のこと」
湊は少し笑った。
「俺、綾花のこと好きなんだ」
「……」
「だから、松宮くんにもちゃんと言っておこうと思って」
日向は少しだけ目を細める。
「……俺も、綾花先輩のこと好きです」
「やっぱりね」
「はい」
「じゃあ、遠慮しない」
「俺もです」
二人の間に、静かな緊張が走る。
少しして、湊がふっと笑った。
「でもさ」
「はい?」
「俺は湊くんなんだけど、松宮くんは苗字なんだね」
「……」
その言葉に、日向の表情が止まる。
「綾花、俺のこと『湊くん』って呼ぶから」
「……そうですね」
「松宮くんは、ずっと『綾花先輩』だよね」
「まあ……」
「それって、結構大きいと思うよ」
湊はそう言って笑った。
「じゃあ、俺はこれで」
「……はい」
湊が体育館へ戻っていく。
日向はその背中を見ながら、小さく息を吐いた。
――確かに。
日向はその場から動けずにいた。
「……湊くん、か」
小さく呟く。
別に、名前で呼ばれていること自体が羨ましいわけじゃない。
……いや。
羨ましい。
めちゃくちゃ羨ましい。
俺だって。
「……俺も名前で呼ばれたい」
そう呟いた瞬間。
「松宮くん?」
「……え?」
聞き覚えのある声。
振り返ると、体育館の入り口に綾花が立っていた。
「綾花先輩……?」
「どうしたの?こんなところで」
「いや、ちょっと神谷先輩と話してて」
「湊くんと?」
「はい」
綾花は何も気にせず、日向の隣まで歩いてくる。
「そっか」
「……先輩」
「ん?」
日向は少し迷ってから口を開いた。
「俺のことって……」
「うん?」
「名前で呼んでくれないんですか?」
「……え?」
綾花が目を丸くする。
「だって、神谷先輩は湊くんじゃないですか」
「ああ……」
「俺はずっと松宮くんですよね」
「そうだね」
「……俺も名前で呼んでほしいです」
綾花は少し考えてから、ふっと笑った。
「じゃあ……日向くん?」
「……!」
思わず黙る。
「どう?」
「……いいです」
「ふふっ」
「めっちゃいいです」
綾花が笑う。
「じゃあこれから日向くんね」
「はい」
そのとき。
「綾花ー!」
少し離れたところから、凛花の声が聞こえた。
「あ、りん!」
綾花が振り返る。
「先行っててー!」
「分かったー!」
凛花が去っていく。
「じゃあ、私も帰ろうかな」
「……俺も一緒に帰っていいですか?」
「もちろん」
二人で学校を出る。
夕方の道を、並んで歩く。
「ねえ、日向くん」
「はい?」
「今日なんか嬉しそうだね」
「……分かります?」
「うん」
日向は少し笑った。
「先輩に名前で呼んでもらえたからです」
「そんなに?」
「そんなにです」
「ふふっ。じゃあいっぱい呼ぼうかな」
「……お願いします」
綾花が隣で笑う。
「日向くん」
「はい」
「日向くん」
「……はい」
「ふふっ、返事するんだ笑」
「だって嬉しいんで」
綾花は楽しそうに笑った。
その横顔を見ながら、日向も笑う。
――一つ、距離が縮まった。
そう思った。
でも。
まだ「後輩」なのは変わらない。
だから。
いつか。
名前を呼ばれるだけじゃなくて。
一人の男として、好きになってもらいたい。
そう思いながら、日向は綾花の隣を歩いた。



