昼休み。
日向〈ひなた〉は、友達の圭〈けい〉とくだらない話をしながら教室で過ごしていた。
「日向!聞いて、昨日俺さ――」
「はいはい、どした」
日向は興味なさそうにスマホを眺める。
「ちゃんと聞けよ笑」
「聞いてるって」
圭が話し始めた、そのときだった。
「圭ー!いるー?」
教室の入り口から、女の子の声が聞こえた。
圭が顔を上げる。
「あ、先輩」
そう言って立ち上がった圭の後ろから、日向も何となく顔を上げた。
そこに立っていたのは、制服を着た一人の女子。
結んだ髪を揺らしながら、教室の中を見回している。
「綾花先輩、どうしたんですか?」
「これ、部活のプリント。昨日休んでたでしょ」
「あ、わざわざありがとうございます」
「全然いいよ〜」
圭と楽しそうに話す先輩。
日向は、無意識にその姿を目で追っていた。
――可愛い。
それが、最初の感想だった。
しかも、ただ可愛いだけじゃない。
笑ったときの雰囲気とか、話し方とか。
なんとなく、余裕がある。
「……圭」
「ん?」
「あの人、誰?」
「齋藤綾花〈さいとうあやか〉先輩。俺の部活の先輩」
「へえ」
「お前、また気になった?」
圭がニヤッと笑う。
「いや、普通に可愛いじゃん」
「はいはい」
「いや、マジで」
日向はそう言って立ち上がった。
いつものことだった。
可愛い女子がいたら話しかける。
それくらい、日向にとっては簡単なことだった。
綾花の前まで歩いていく。
「先輩」
「ん?」
綾花が振り返る。
「俺、松宮日向〈まつみやひなた〉です。圭の友達」
「松宮くん?よろしくね」
にこっと笑われる。
――やっぱり可愛い。
日向は口元を緩めた。
「先輩って、彼氏いるんですか?」
圭が後ろで「おい」と小さく笑う。
けれど綾花は驚くこともなく、
「いないよ?」
と、あっさり答えた。
「じゃあ俺、立候補していいです?」
「ふふっ」
綾花は少し笑った。
「松宮くん、積極的だね」
「結構本気ですよ?」
「そうなの?」
「はい。先輩、めっちゃタイプなんで」
「ありがとう笑」
綾花は嬉しそうに笑う。
けれど――それだけ。
日向が期待したような反応は、何もない。
「……え、それだけ?」
「ん?」
「いや、俺、結構口説いてるんですけど」
「うん、分かってるよ?」
「分かっててそれ?」
「だって松宮くん、こういうことよくしてるでしょ」
「まあ、そうですけど」
「やっぱり笑」
「でも先輩には特別です」
日向が笑顔で言う。
綾花は少しだけ目を細めて、
「そういうこと言うのも上手だね」
「本当に言ってるんですけど」
「はいはい」
綾花は楽しそうに笑った。
「じゃあ、松宮くん。またね」
「……はい」
そう言って、綾花は教室から出ていった。
日向はその背中を見つめた。
「…………」
圭が隣に来る。
「お前、珍しく負けてんじゃん」
「負けてねえし」
「いや、完全にかわされてたけど」
「……あの人、何なの?」
「綾花先輩?」
「うん」
「優しいし、面倒見いいし、結構人気あるよ」
「……ふーん」
日向は素っ気なく返しながら、さっき綾花が出ていった教室の入り口をもう一度見る。
もう、そこに姿はない。
「何、お前。気になってんの?」
「別に」
「じゃあなんで見てんの?」
「……可愛いから」
「はいはい」
今度は圭が、さっきの綾花と同じように笑った。
「お前、あの先輩には無理だと思うよ」
「なんで?」
「綾花先輩、ああいうの慣れてるから」
「……へえ」
「しかも、先輩めっちゃ鈍感だし」
「鈍感?」
「うん。自分がモテてることも、たぶんあんま分かってない」
「マジ?」
「マジ」
日向は少しだけ笑った。
「じゃあ、ちょうどいいじゃん」
「何が?」
「俺が好きって分かるまで、ずっと言えばいいんでしょ?」
「お前、懲りないな笑」
「だって、あんな可愛い先輩見つけたのに、何もしないとか無理でしょ」
圭は呆れたように笑った。
「まあ、頑張れよ」
「おう」
日向はそう答えて、スマホをポケットにしまった。
たった一人の先輩が教室に来ただけ。
それだけだったはずなのに。
なぜか、いつもの昼休みより少しだけ楽しかった。
――齋藤綾花。
日向は、その名前を頭の中でもう一度思い浮かべる。
この日から。
松宮日向の、先輩を振り向かせるための猛アピールが始まった。
日向〈ひなた〉は、友達の圭〈けい〉とくだらない話をしながら教室で過ごしていた。
「日向!聞いて、昨日俺さ――」
「はいはい、どした」
日向は興味なさそうにスマホを眺める。
「ちゃんと聞けよ笑」
「聞いてるって」
圭が話し始めた、そのときだった。
「圭ー!いるー?」
教室の入り口から、女の子の声が聞こえた。
圭が顔を上げる。
「あ、先輩」
そう言って立ち上がった圭の後ろから、日向も何となく顔を上げた。
そこに立っていたのは、制服を着た一人の女子。
結んだ髪を揺らしながら、教室の中を見回している。
「綾花先輩、どうしたんですか?」
「これ、部活のプリント。昨日休んでたでしょ」
「あ、わざわざありがとうございます」
「全然いいよ〜」
圭と楽しそうに話す先輩。
日向は、無意識にその姿を目で追っていた。
――可愛い。
それが、最初の感想だった。
しかも、ただ可愛いだけじゃない。
笑ったときの雰囲気とか、話し方とか。
なんとなく、余裕がある。
「……圭」
「ん?」
「あの人、誰?」
「齋藤綾花〈さいとうあやか〉先輩。俺の部活の先輩」
「へえ」
「お前、また気になった?」
圭がニヤッと笑う。
「いや、普通に可愛いじゃん」
「はいはい」
「いや、マジで」
日向はそう言って立ち上がった。
いつものことだった。
可愛い女子がいたら話しかける。
それくらい、日向にとっては簡単なことだった。
綾花の前まで歩いていく。
「先輩」
「ん?」
綾花が振り返る。
「俺、松宮日向〈まつみやひなた〉です。圭の友達」
「松宮くん?よろしくね」
にこっと笑われる。
――やっぱり可愛い。
日向は口元を緩めた。
「先輩って、彼氏いるんですか?」
圭が後ろで「おい」と小さく笑う。
けれど綾花は驚くこともなく、
「いないよ?」
と、あっさり答えた。
「じゃあ俺、立候補していいです?」
「ふふっ」
綾花は少し笑った。
「松宮くん、積極的だね」
「結構本気ですよ?」
「そうなの?」
「はい。先輩、めっちゃタイプなんで」
「ありがとう笑」
綾花は嬉しそうに笑う。
けれど――それだけ。
日向が期待したような反応は、何もない。
「……え、それだけ?」
「ん?」
「いや、俺、結構口説いてるんですけど」
「うん、分かってるよ?」
「分かっててそれ?」
「だって松宮くん、こういうことよくしてるでしょ」
「まあ、そうですけど」
「やっぱり笑」
「でも先輩には特別です」
日向が笑顔で言う。
綾花は少しだけ目を細めて、
「そういうこと言うのも上手だね」
「本当に言ってるんですけど」
「はいはい」
綾花は楽しそうに笑った。
「じゃあ、松宮くん。またね」
「……はい」
そう言って、綾花は教室から出ていった。
日向はその背中を見つめた。
「…………」
圭が隣に来る。
「お前、珍しく負けてんじゃん」
「負けてねえし」
「いや、完全にかわされてたけど」
「……あの人、何なの?」
「綾花先輩?」
「うん」
「優しいし、面倒見いいし、結構人気あるよ」
「……ふーん」
日向は素っ気なく返しながら、さっき綾花が出ていった教室の入り口をもう一度見る。
もう、そこに姿はない。
「何、お前。気になってんの?」
「別に」
「じゃあなんで見てんの?」
「……可愛いから」
「はいはい」
今度は圭が、さっきの綾花と同じように笑った。
「お前、あの先輩には無理だと思うよ」
「なんで?」
「綾花先輩、ああいうの慣れてるから」
「……へえ」
「しかも、先輩めっちゃ鈍感だし」
「鈍感?」
「うん。自分がモテてることも、たぶんあんま分かってない」
「マジ?」
「マジ」
日向は少しだけ笑った。
「じゃあ、ちょうどいいじゃん」
「何が?」
「俺が好きって分かるまで、ずっと言えばいいんでしょ?」
「お前、懲りないな笑」
「だって、あんな可愛い先輩見つけたのに、何もしないとか無理でしょ」
圭は呆れたように笑った。
「まあ、頑張れよ」
「おう」
日向はそう答えて、スマホをポケットにしまった。
たった一人の先輩が教室に来ただけ。
それだけだったはずなのに。
なぜか、いつもの昼休みより少しだけ楽しかった。
――齋藤綾花。
日向は、その名前を頭の中でもう一度思い浮かべる。
この日から。
松宮日向の、先輩を振り向かせるための猛アピールが始まった。



