第一話 最悪な出会い、のはずだった
昼休み。
日向は、友達の圭とくだらない話をしながら教室で過ごしていた。
「日向!聞いて、昨日俺さ――」
「はいはい、どした」
日向は興味なさそうにスマホを眺める。
「ちゃんと聞けよ笑」
「聞いてるって」
圭が話し始めた、そのときだった。
「圭ー!いるー?」
教室の入り口から、女の子の声が聞こえた。
圭が顔を上げる。
「あ、先輩」
そう言って立ち上がった圭の後ろから、日向も何となく顔を上げた。
そこに立っていたのは、制服を着た一人の女子。
結んだ髪を揺らしながら、教室の中を見回している。
「綾花先輩、どうしたんですか?」
「これ、部活のプリント。昨日休んでたでしょ」
「あ、わざわざありがとうございます」
「全然いいよ〜」
圭と楽しそうに話す先輩。
日向は、無意識にその姿を目で追っていた。
――可愛い。
それが、最初の感想だった。
しかも、ただ可愛いだけじゃない。
笑ったときの雰囲気とか、話し方とか。
なんとなく、余裕がある。
「……圭」
「ん?」
「あの人、誰?」
「齋藤綾花先輩。俺の部活の先輩」
「へえ」
「お前、また気になった?」
圭がニヤッと笑う。
「いや、普通に可愛いじゃん」
「はいはい」
「いや、マジで」
日向はそう言って立ち上がった。
いつものことだった。
可愛い女子がいたら話しかける。
それくらい、日向にとっては簡単なことだった。
綾花の前まで歩いていく。
「先輩」
「ん?」
綾花が振り返る。
「俺、松宮日向です。圭の友達」
「松宮くん?よろしくね」
にこっと笑われる。
――やっぱり可愛い。
日向は口元を緩めた。
「先輩って、彼氏いるんですか?」
圭が後ろで「おい」と小さく笑う。
けれど綾花は驚くこともなく、
「いないよ?」
と、あっさり答えた。
「じゃあ俺、立候補していいです?」
「ふふっ」
綾花は少し笑った。
「松宮くん、積極的だね」
「結構本気ですよ?」
「そうなの?」
「はい。先輩、めっちゃタイプなんで」
「ありがとう笑」
綾花は嬉しそうに笑う。
けれど――それだけ。
日向が期待したような反応は、何もない。
「……え、それだけ?」
「ん?」
「いや、俺、結構口説いてるんですけど」
「うん、分かってるよ?」
「分かっててそれ?」
「だって松宮くん、こういうことよくしてるでしょ」
「まあ、そうですけど」
「やっぱり笑」
「でも先輩には特別です」
日向が笑顔で言う。
綾花は少しだけ目を細めて、
「そういうこと言うのも上手だね」
「本当に言ってるんですけど」
「はいはい」
綾花は楽しそうに笑った。
「じゃあ、松宮くん。またね」
「……はい」
そう言って、綾花は教室から出ていった。
日向はその背中を見つめた。
「…………」
圭が隣に来る。
「お前、珍しく負けてんじゃん」
「負けてねえし」
「いや、完全にかわされてたけど」
「……あの人、何なの?」
「綾花先輩?」
「うん」
「優しいし、面倒見いいし、結構人気あるよ」
「……ふーん」
日向は素っ気なく返しながら、さっき綾花が出ていった教室の入り口をもう一度見る。
もう、そこに姿はない。
「何、お前。気になってんの?」
「別に」
「じゃあなんで見てんの?」
「……可愛いから」
「はいはい」
今度は圭が、さっきの綾花と同じように笑った。
「お前、あの先輩には無理だと思うよ」
「なんで?」
「綾花先輩、ああいうの慣れてるから」
「……へえ」
「しかも、先輩めっちゃ鈍感だし」
「鈍感?」
「うん。自分がモテてることも、たぶんあんま分かってない」
「マジ?」
「マジ」
日向は少しだけ笑った。
「じゃあ、ちょうどいいじゃん」
「何が?」
「俺が好きって分かるまで、ずっと言えばいいんでしょ?」
「お前、懲りないな笑」
「だって、あんな可愛い先輩見つけたのに、何もしないとか無理でしょ」
圭は呆れたように笑った。
「まあ、頑張れよ」
「おう」
日向はそう答えて、スマホをポケットにしまった。
たった一人の先輩が教室に来ただけ。
それだけだったはずなのに。
なぜか、いつもの昼休みより少しだけ楽しかった。
――齋藤綾花。
日向は、その名前を頭の中でもう一度思い浮かべる。
この日から。
松宮日向の、先輩を振り向かせるための猛アピールが始まった。
昼休み。
日向は、友達の圭とくだらない話をしながら教室で過ごしていた。
「日向!聞いて、昨日俺さ――」
「はいはい、どした」
日向は興味なさそうにスマホを眺める。
「ちゃんと聞けよ笑」
「聞いてるって」
圭が話し始めた、そのときだった。
「圭ー!いるー?」
教室の入り口から、女の子の声が聞こえた。
圭が顔を上げる。
「あ、先輩」
そう言って立ち上がった圭の後ろから、日向も何となく顔を上げた。
そこに立っていたのは、制服を着た一人の女子。
結んだ髪を揺らしながら、教室の中を見回している。
「綾花先輩、どうしたんですか?」
「これ、部活のプリント。昨日休んでたでしょ」
「あ、わざわざありがとうございます」
「全然いいよ〜」
圭と楽しそうに話す先輩。
日向は、無意識にその姿を目で追っていた。
――可愛い。
それが、最初の感想だった。
しかも、ただ可愛いだけじゃない。
笑ったときの雰囲気とか、話し方とか。
なんとなく、余裕がある。
「……圭」
「ん?」
「あの人、誰?」
「齋藤綾花先輩。俺の部活の先輩」
「へえ」
「お前、また気になった?」
圭がニヤッと笑う。
「いや、普通に可愛いじゃん」
「はいはい」
「いや、マジで」
日向はそう言って立ち上がった。
いつものことだった。
可愛い女子がいたら話しかける。
それくらい、日向にとっては簡単なことだった。
綾花の前まで歩いていく。
「先輩」
「ん?」
綾花が振り返る。
「俺、松宮日向です。圭の友達」
「松宮くん?よろしくね」
にこっと笑われる。
――やっぱり可愛い。
日向は口元を緩めた。
「先輩って、彼氏いるんですか?」
圭が後ろで「おい」と小さく笑う。
けれど綾花は驚くこともなく、
「いないよ?」
と、あっさり答えた。
「じゃあ俺、立候補していいです?」
「ふふっ」
綾花は少し笑った。
「松宮くん、積極的だね」
「結構本気ですよ?」
「そうなの?」
「はい。先輩、めっちゃタイプなんで」
「ありがとう笑」
綾花は嬉しそうに笑う。
けれど――それだけ。
日向が期待したような反応は、何もない。
「……え、それだけ?」
「ん?」
「いや、俺、結構口説いてるんですけど」
「うん、分かってるよ?」
「分かっててそれ?」
「だって松宮くん、こういうことよくしてるでしょ」
「まあ、そうですけど」
「やっぱり笑」
「でも先輩には特別です」
日向が笑顔で言う。
綾花は少しだけ目を細めて、
「そういうこと言うのも上手だね」
「本当に言ってるんですけど」
「はいはい」
綾花は楽しそうに笑った。
「じゃあ、松宮くん。またね」
「……はい」
そう言って、綾花は教室から出ていった。
日向はその背中を見つめた。
「…………」
圭が隣に来る。
「お前、珍しく負けてんじゃん」
「負けてねえし」
「いや、完全にかわされてたけど」
「……あの人、何なの?」
「綾花先輩?」
「うん」
「優しいし、面倒見いいし、結構人気あるよ」
「……ふーん」
日向は素っ気なく返しながら、さっき綾花が出ていった教室の入り口をもう一度見る。
もう、そこに姿はない。
「何、お前。気になってんの?」
「別に」
「じゃあなんで見てんの?」
「……可愛いから」
「はいはい」
今度は圭が、さっきの綾花と同じように笑った。
「お前、あの先輩には無理だと思うよ」
「なんで?」
「綾花先輩、ああいうの慣れてるから」
「……へえ」
「しかも、先輩めっちゃ鈍感だし」
「鈍感?」
「うん。自分がモテてることも、たぶんあんま分かってない」
「マジ?」
「マジ」
日向は少しだけ笑った。
「じゃあ、ちょうどいいじゃん」
「何が?」
「俺が好きって分かるまで、ずっと言えばいいんでしょ?」
「お前、懲りないな笑」
「だって、あんな可愛い先輩見つけたのに、何もしないとか無理でしょ」
圭は呆れたように笑った。
「まあ、頑張れよ」
「おう」
日向はそう答えて、スマホをポケットにしまった。
たった一人の先輩が教室に来ただけ。
それだけだったはずなのに。
なぜか、いつもの昼休みより少しだけ楽しかった。
――齋藤綾花。
日向は、その名前を頭の中でもう一度思い浮かべる。
この日から。
松宮日向の、先輩を振り向かせるための猛アピールが始まった。



