秋の長雨が降る10月の土曜日。
いつもなら公園や古い街並みを散策するのだが、今日はあいにくの土砂降りで、駅前にある小さなインドアのレンタルスペースをふたりで借りていた。
木の温もりがする小さな部屋。窓の外を打つ雨音を聞きながら、ふたりは床にラグを敷いて並んで座っている。
「雨、すごいね」
「うん。でも、ここなら濡れないから安心だね」
貫太が持ってきた魔法瓶から、温かいアールグレイの紅茶をカップに注いでくれる。
ふわっと漂うベルガモットの香りに、加奈は深く息を吸い込んだ。
「あー、落ち着く……。ねえ貫太くん、これ見て」
加奈はバッグから、ずっしりと重い単行本を取り出した。それは、一昔前のハードボイルドな探偵小説だった。
「これ、ずっと読みたかったやつなんだけど、装丁のデザインもすごく渋くてかっこよくてさ。このフォントの感じとか、たまらないんだよね」
熱っぽく語る加奈の横顔を、貫太は優しく、いとおしそうに見つめていた。
「加奈ちゃん、本当にそういうのが好きなんだね。目がすごくキラキラしてる」
「え? 変じゃない?」
「全然。すごく素敵だよ。……あ、そうだ、僕もこれ持ってきたんだ」
貫太が取り出したのは、手作りのレース編みのコースターだった。
「さっきの紅茶の下に敷いたら可愛いかなって思って。昨日の夜、夜なべして編んだんだ」
見事な手際の良さで作られた、雪の結晶のようなレースコースター。
加奈はその繊細な美しさに息をのんだ。
「すごい……これ、貫太くんが自分で編んだの? プロみたい……!」
「ふふ、こういう細かい作業してると、心がすっごく落ち着くんだよね。女の子っぽくて変かなって、昔は隠してたんだけどさ」
「変なんかじゃないよ!」
加奈は思わず、貫太の手を両手でギュッと掴んだ。
自分でも驚くほどの勢いに、ふたりとも言葉を失う。
加奈の手が、貫太の少し冷たい指先を包み込んでいた。
(この手を、ずっと離したくない)
心臓の音が雨音にかき消されないように、加奈はぐっと息を呑み込んだ。
いつもなら公園や古い街並みを散策するのだが、今日はあいにくの土砂降りで、駅前にある小さなインドアのレンタルスペースをふたりで借りていた。
木の温もりがする小さな部屋。窓の外を打つ雨音を聞きながら、ふたりは床にラグを敷いて並んで座っている。
「雨、すごいね」
「うん。でも、ここなら濡れないから安心だね」
貫太が持ってきた魔法瓶から、温かいアールグレイの紅茶をカップに注いでくれる。
ふわっと漂うベルガモットの香りに、加奈は深く息を吸い込んだ。
「あー、落ち着く……。ねえ貫太くん、これ見て」
加奈はバッグから、ずっしりと重い単行本を取り出した。それは、一昔前のハードボイルドな探偵小説だった。
「これ、ずっと読みたかったやつなんだけど、装丁のデザインもすごく渋くてかっこよくてさ。このフォントの感じとか、たまらないんだよね」
熱っぽく語る加奈の横顔を、貫太は優しく、いとおしそうに見つめていた。
「加奈ちゃん、本当にそういうのが好きなんだね。目がすごくキラキラしてる」
「え? 変じゃない?」
「全然。すごく素敵だよ。……あ、そうだ、僕もこれ持ってきたんだ」
貫太が取り出したのは、手作りのレース編みのコースターだった。
「さっきの紅茶の下に敷いたら可愛いかなって思って。昨日の夜、夜なべして編んだんだ」
見事な手際の良さで作られた、雪の結晶のようなレースコースター。
加奈はその繊細な美しさに息をのんだ。
「すごい……これ、貫太くんが自分で編んだの? プロみたい……!」
「ふふ、こういう細かい作業してると、心がすっごく落ち着くんだよね。女の子っぽくて変かなって、昔は隠してたんだけどさ」
「変なんかじゃないよ!」
加奈は思わず、貫太の手を両手でギュッと掴んだ。
自分でも驚くほどの勢いに、ふたりとも言葉を失う。
加奈の手が、貫太の少し冷たい指先を包み込んでいた。
(この手を、ずっと離したくない)
心臓の音が雨音にかき消されないように、加奈はぐっと息を呑み込んだ。



