デートの翌日。
図書館の窓から見える空は、薄い灰色をしていた。
「また降るのかな……」
昨日の帰り道の雨を思い出す。
傘の下で寄り添った距離。
胸の奥が静かに温かくなる。
◇
仕事を終えて外へ出ると、ぽつり、と雨粒が落ちた。
「……やっぱり」
折りたたみ傘を開こうとした瞬間、スマートフォンが震えた。
『雨宮さん、今どこですか?』
悠真さんからだった。
『図書館を出たところです』
送ると、すぐに返事が来た。
『迎えに行きます』
胸が跳ねる。
『大丈夫です、傘あります』
そう返したのに、
『行きたいので』
その一言で、もう何も言えなくなった。
◇
数分後。
カフェ・ルーチェの白い軽ワゴンがゆっくりと停まった。
運転席から降りてきた悠真さんは、傘を広げながら駆け寄ってくる。
肩に雨粒が落ちて、少し濡れていた。
「迎えに来ました」
「……ありがとうございます」
昨日より少しだけ近い笑顔だった。
「車、すぐそこなので。少し歩きましょう」
「はい」
二人で傘に入る。
雨は強くなり、傘の布を叩く音が静かに響く。
◇
歩いていると、突然雨がさらに強くなった。
「わ、すごい……」
「ちょっと雨宿りしましょう」
近くの古い商店の軒先に入る。
屋根の下でも雨音は大きく響いていた。
「濡れてませんか?」
悠真さんが私の肩にそっと触れる。
その仕草に、心臓が跳ねる。
「だ、大丈夫です……」
「よかった」
雨宿りの時間は、なぜかゆっくり流れる。
「雨宮さん」
「はい?」
「昨日のデート、すごく楽しかったです」
胸がじんわりと熱くなる。
「……私も楽しかったです」
「また行きたいですね」
「はい」
雨音の中で交わす言葉は、いつもより少しだけ甘かった。
「……また、手をつないでもいいですか?」
昨日より少しだけ照れた声。
私は小さく頷いた。
そっと重ねられた手は、雨の冷たさを忘れさせるほど温かかった。
◇
雨が少し弱まった頃、悠真さんが言った。
「車、すぐそこです。送りますね」
「……お願いします」
軒先を出て、数十メートル歩くと軽ワゴンが見えてきた。
車内に入ると、雨音が静かに響いていた。
「雨宮さん」
「はい?」
「雨の日、好きになってきました」
「え……」
「雨宮さんと一緒にいると、雨が優しく感じるので」
胸がぎゅっとなる。
「……私もです」
言葉にすると、胸がまた静かに満たされる。
◇
軽ワゴンは静かにアパートの駐車スペースへ入った。
二人で階段を上がる。
隣同士の部屋の前で立ち止まる。
「送ってくれて……ありがとうございました」
「いえ。雨宮さんが濡れないようにしたかったので」
雨音が遠くで響いている。
別れ際が少しだけ名残惜しい。
「じゃあ……また明日」
「……はい」
昨日より近い距離で交わす「また明日」。
その言葉が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、レシピノートを開いた。
新しいページに、そっと書く。
『雨宿りの時間が、どうしてこんなに幸せだったんだろう。
桐生さんの手が、雨よりずっと温かかった。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の日は、今日も静かに恋を進めてくれた。
図書館の窓から見える空は、薄い灰色をしていた。
「また降るのかな……」
昨日の帰り道の雨を思い出す。
傘の下で寄り添った距離。
胸の奥が静かに温かくなる。
◇
仕事を終えて外へ出ると、ぽつり、と雨粒が落ちた。
「……やっぱり」
折りたたみ傘を開こうとした瞬間、スマートフォンが震えた。
『雨宮さん、今どこですか?』
悠真さんからだった。
『図書館を出たところです』
送ると、すぐに返事が来た。
『迎えに行きます』
胸が跳ねる。
『大丈夫です、傘あります』
そう返したのに、
『行きたいので』
その一言で、もう何も言えなくなった。
◇
数分後。
カフェ・ルーチェの白い軽ワゴンがゆっくりと停まった。
運転席から降りてきた悠真さんは、傘を広げながら駆け寄ってくる。
肩に雨粒が落ちて、少し濡れていた。
「迎えに来ました」
「……ありがとうございます」
昨日より少しだけ近い笑顔だった。
「車、すぐそこなので。少し歩きましょう」
「はい」
二人で傘に入る。
雨は強くなり、傘の布を叩く音が静かに響く。
◇
歩いていると、突然雨がさらに強くなった。
「わ、すごい……」
「ちょっと雨宿りしましょう」
近くの古い商店の軒先に入る。
屋根の下でも雨音は大きく響いていた。
「濡れてませんか?」
悠真さんが私の肩にそっと触れる。
その仕草に、心臓が跳ねる。
「だ、大丈夫です……」
「よかった」
雨宿りの時間は、なぜかゆっくり流れる。
「雨宮さん」
「はい?」
「昨日のデート、すごく楽しかったです」
胸がじんわりと熱くなる。
「……私も楽しかったです」
「また行きたいですね」
「はい」
雨音の中で交わす言葉は、いつもより少しだけ甘かった。
「……また、手をつないでもいいですか?」
昨日より少しだけ照れた声。
私は小さく頷いた。
そっと重ねられた手は、雨の冷たさを忘れさせるほど温かかった。
◇
雨が少し弱まった頃、悠真さんが言った。
「車、すぐそこです。送りますね」
「……お願いします」
軒先を出て、数十メートル歩くと軽ワゴンが見えてきた。
車内に入ると、雨音が静かに響いていた。
「雨宮さん」
「はい?」
「雨の日、好きになってきました」
「え……」
「雨宮さんと一緒にいると、雨が優しく感じるので」
胸がぎゅっとなる。
「……私もです」
言葉にすると、胸がまた静かに満たされる。
◇
軽ワゴンは静かにアパートの駐車スペースへ入った。
二人で階段を上がる。
隣同士の部屋の前で立ち止まる。
「送ってくれて……ありがとうございました」
「いえ。雨宮さんが濡れないようにしたかったので」
雨音が遠くで響いている。
別れ際が少しだけ名残惜しい。
「じゃあ……また明日」
「……はい」
昨日より近い距離で交わす「また明日」。
その言葉が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、レシピノートを開いた。
新しいページに、そっと書く。
『雨宿りの時間が、どうしてこんなに幸せだったんだろう。
桐生さんの手が、雨よりずっと温かかった。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の日は、今日も静かに恋を進めてくれた。



