好きでいっぱい

休日の朝。
窓から差し込む光は柔らかく、空は雲ひとつない青だった。

「……晴れてる」

思わず小さく笑う。
雨女の私にしては珍しい、完璧な晴れの日。

今日は、初めてのデートだった。

“どこか行きませんか?”
昨日、帰り道で悠真さんがそう言ってくれた。

その言葉を思い出すだけで、胸が静かに高鳴る。



服を選びながら、私は鏡の前で少しだけ悩んだ。

恋人としての初めてのデート。
何を着ればいいのか分からない。

「……これでいいかな」

淡い色のブラウス。
いつもより少しだけ明るい色。

深呼吸して、玄関を出る。



待ち合わせは、カフェ・ルーチェの前だった。

店の前に着くと、悠真さんがすでに待っていた。
白いシャツに薄いグレーのカーディガン。
いつもより少しだけラフな雰囲気。

「雨宮さん」

笑顔で手を振ってくれる。
その笑顔を見るだけで、胸が温かくなる。

「お待たせしました」

「いえ。早く来たのは僕なので」

少し照れたように笑う。
その仕草が、昨日よりずっと恋人らしく見えた。

「じゃあ、行きましょうか」

「はい」



向かったのは、駅前の小さな雑貨店だった。
ガラス越しに見える店内は、淡い色の雑貨が並んでいて、
どこか絵本の世界みたいだった。

「ここ、好きなんです」

悠真さんが言う。

「意外です」

「よく言われます」

二人で笑う。

店内を歩くと、可愛いマグカップや小さな置き時計が並んでいた。

「これ、雨宮さんに似合いそう」

淡い黄色のマグカップを手に取って、悠真さんが言う。

「え……」

「優しい色なので」

胸が少し跳ねる。

「……可愛いですね」

「ですよね」

二人で同じものを見て、同じように笑う。
それだけで、恋人になった実感がまた少し強くなる。



雑貨店を出ると、風が少し冷たかった。
空は晴れているのに、遠くで雲がゆっくり流れている。

「雨、降るかもしれませんね」

悠真さんが空を見上げる。

「……私のせいかも」

冗談めかして言うと、悠真さんは笑った。

「降ったら降ったで、また相合傘できますね」

その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。



次に向かったのは、小さな公園だった。
木々の間を抜ける風が心地よくて、
ベンチに座ると、少しだけゆっくりした時間が流れた。

「雨宮さん」

「はい?」

「今日、来てくれて嬉しいです」

「……私も嬉しいです」

言葉にすると、胸が少し熱くなる。

「恋人としてのデート、どうですか?」

「……まだ慣れないですけど」

「うん」

「でも、桐生さんとなら……」

言いかけて、少し照れる。

「ゆっくり慣れていけそうです」

悠真さんは、静かに笑った。

「僕もです」

その笑顔が、風より優しく感じた。



帰り道。
空は少し曇ってきていた。

ぽつり。

肩に小さな雨粒が落ちる。

「……降ってきましたね」

「ですね」

悠真さんが傘を広げる。
自然な仕草で、私の肩にそっと寄せてくれる。

昨日より近い距離。
雨音が静かに響く。

「雨宮さん」

「はい?」

「またデートしましょうね」

「……はい」

胸がまた静かに満たされる。

雨の帰り道は、今日も優しかった。



部屋に戻ると、レシピノートを開いた。

新しいページに、そっと書く。

『初めてのデートは、雨が少し降ったけれど
それでも全部、幸せでした。』

ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。

雨の日も晴れの日も、
恋人になった世界は、静かに優しく広がっていく。