カフェ・ルーチェの扉を開けると、夕方の柔らかな光が店内を照らしていた。
「いらっしゃい」
悠真さんが、いつものように笑う。
その笑顔を見るだけで、胸が少し温かくなる。
「今日も来てくれて嬉しいです」
「……来たくなったので」
言葉にすると照れくさい。
でも、恋人になってからはその照れくささすら少しだけ心地よかった。
◇
窓際の席に座ると、店内はいつもより少し賑やかだった。
常連の女性客が二人、カウンターで楽しそうに話している。
「店長さん、今日も優しいですね〜」
「ほんと。あの笑顔、癒される〜」
軽い冗談のような声。
けれど私は、なぜか胸がざわついた。
悠真さんは、いつものように丁寧に対応しているだけ。
それは分かっているのに、心が落ち着かない。
「雨宮さん、ラテ持ってきますね」
「……はい」
返事はできたけれど、声が少しだけ小さくなった。
◇
ラテを飲みながら、私は自分の気持ちに戸惑っていた。
嫉妬なんて、したことがない。
そもそも恋人ができたのも初めてで、
こんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。
「……変だな」
小さく呟く。
嫌な気持ちではない。
でも胸の奥が少しだけ苦しい。
その時だった。
「雨宮さん」
顔を上げると、悠真さんが心配そうに覗き込んでいた。
「今日、なんか元気ないですね」
「え……」
「ラテ、あまり飲んでないですし」
見られていた。
気づかれていた。
「いえ、そんな……」
否定しようとしたけれど、言葉がうまく出てこない。
悠真さんは少しだけ席の隣にしゃがんだ。
「何かありました?」
優しい声。
責めるような言い方じゃない。
だから余計に胸が苦しくなる。
「……その……」
言いかけて、言葉が止まる。
嫉妬なんて、言えるはずがない。
そんなことを言ったら、重いと思われるかもしれない。
でも。
「さっき……」
「うん」
「女性のお客さんと話してるのを見て……」
言葉が途切れる。
でも、もう止められなかった。
「なんか……胸が苦しくなって……」
言い終えた瞬間、顔が熱くなる。
恥ずかしい。
でも、嘘じゃない。
悠真さんは驚いたように目を丸くした。
それから、ゆっくり笑った。
「……それ、嫉妬ですね」
「ち、違……」
「違わないですよ」
優しく言われて、私はますます顔が熱くなる。
「でも、嬉しいです」
「え……?」
「雨宮さんが、僕のことをそんなふうに思ってくれてるのが」
胸が跳ねた。
「僕は、誰にでも優しいわけじゃないですよ」
「……」
「雨宮さんには、特別に優しいんです」
その言葉は、静かに、でも確かに胸の奥に届いた。
◇
閉店後。
雨は降っていなかったけれど、空気は少し湿っていた。
「送りますね」
「……はい」
二人で歩く帰り道。
手をつなぐと、さっきの不安が少しずつ溶けていく。
「雨宮さん」
「はい?」
「嫉妬してくれて、嬉しかったです」
「……もう言わないでください」
照れながら言うと、悠真さんは静かに笑った。
「じゃあ、僕も言いますね」
「え?」
「僕も嫉妬しますよ」
「……え?」
「雨宮さんが誰かと楽しそうに話してたら、きっと僕も胸がざわつきます」
その言葉に、歩く速度が少しだけ止まりそうになる。
「だから、お互い様です」
「……はい」
胸がまた静かに満たされる。
◇
部屋に戻ると、レシピノートを開いた。
新しいページに、そっと書く。
『初めて嫉妬しました。
でも桐生さんの言葉で、全部安心に変わりました。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
恋人になって初めての嫉妬は、
思っていたよりずっと甘いものだった。
「いらっしゃい」
悠真さんが、いつものように笑う。
その笑顔を見るだけで、胸が少し温かくなる。
「今日も来てくれて嬉しいです」
「……来たくなったので」
言葉にすると照れくさい。
でも、恋人になってからはその照れくささすら少しだけ心地よかった。
◇
窓際の席に座ると、店内はいつもより少し賑やかだった。
常連の女性客が二人、カウンターで楽しそうに話している。
「店長さん、今日も優しいですね〜」
「ほんと。あの笑顔、癒される〜」
軽い冗談のような声。
けれど私は、なぜか胸がざわついた。
悠真さんは、いつものように丁寧に対応しているだけ。
それは分かっているのに、心が落ち着かない。
「雨宮さん、ラテ持ってきますね」
「……はい」
返事はできたけれど、声が少しだけ小さくなった。
◇
ラテを飲みながら、私は自分の気持ちに戸惑っていた。
嫉妬なんて、したことがない。
そもそも恋人ができたのも初めてで、
こんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。
「……変だな」
小さく呟く。
嫌な気持ちではない。
でも胸の奥が少しだけ苦しい。
その時だった。
「雨宮さん」
顔を上げると、悠真さんが心配そうに覗き込んでいた。
「今日、なんか元気ないですね」
「え……」
「ラテ、あまり飲んでないですし」
見られていた。
気づかれていた。
「いえ、そんな……」
否定しようとしたけれど、言葉がうまく出てこない。
悠真さんは少しだけ席の隣にしゃがんだ。
「何かありました?」
優しい声。
責めるような言い方じゃない。
だから余計に胸が苦しくなる。
「……その……」
言いかけて、言葉が止まる。
嫉妬なんて、言えるはずがない。
そんなことを言ったら、重いと思われるかもしれない。
でも。
「さっき……」
「うん」
「女性のお客さんと話してるのを見て……」
言葉が途切れる。
でも、もう止められなかった。
「なんか……胸が苦しくなって……」
言い終えた瞬間、顔が熱くなる。
恥ずかしい。
でも、嘘じゃない。
悠真さんは驚いたように目を丸くした。
それから、ゆっくり笑った。
「……それ、嫉妬ですね」
「ち、違……」
「違わないですよ」
優しく言われて、私はますます顔が熱くなる。
「でも、嬉しいです」
「え……?」
「雨宮さんが、僕のことをそんなふうに思ってくれてるのが」
胸が跳ねた。
「僕は、誰にでも優しいわけじゃないですよ」
「……」
「雨宮さんには、特別に優しいんです」
その言葉は、静かに、でも確かに胸の奥に届いた。
◇
閉店後。
雨は降っていなかったけれど、空気は少し湿っていた。
「送りますね」
「……はい」
二人で歩く帰り道。
手をつなぐと、さっきの不安が少しずつ溶けていく。
「雨宮さん」
「はい?」
「嫉妬してくれて、嬉しかったです」
「……もう言わないでください」
照れながら言うと、悠真さんは静かに笑った。
「じゃあ、僕も言いますね」
「え?」
「僕も嫉妬しますよ」
「……え?」
「雨宮さんが誰かと楽しそうに話してたら、きっと僕も胸がざわつきます」
その言葉に、歩く速度が少しだけ止まりそうになる。
「だから、お互い様です」
「……はい」
胸がまた静かに満たされる。
◇
部屋に戻ると、レシピノートを開いた。
新しいページに、そっと書く。
『初めて嫉妬しました。
でも桐生さんの言葉で、全部安心に変わりました。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
恋人になって初めての嫉妬は、
思っていたよりずっと甘いものだった。



