恋人になって数日が経った。
けれど、生活が劇的に変わるわけではない。
図書館へ行き、仕事をして、帰る。
その途中でカフェ・ルーチェに寄る。
ただ、その“寄る理由”が少しだけ変わった。
会いたいから。
話したいから。
昨日の続きが知りたいから。
そんな気持ちが、静かに胸の奥で膨らんでいた。
◇
夕方。
カフェの扉を開けると、コーヒーの香りがふわりと広がった。
「いらっしゃい」
悠真さんが、いつものように笑う。
その笑顔を見るだけで、胸が少し温かくなる。
「今日も来てくれて嬉しいです」
「……来たくなったので」
言葉にすると照れくさい。
でも嘘じゃなかった。
「座っててください。新しいラテ、試作したんです」
「新しいラテ……?」
「恋人になった記念に、ちょっと甘めです」
心臓が跳ねた。
恋人になった記念。
その言葉だけで、胸がじんわりと熱くなる。
◇
窓際の席に座ると、雨がぽつりと落ちた。
今日も降るらしい。
「雨宮さん、甘いの苦手って言ってましたけど……」
「はい」
「でも、恋人になった記念なら飲んでくれるかなって」
悠真さんは照れたように笑った。
その笑顔が、昨日より少しだけ近く感じた。
「……飲みます」
そう答えると、悠真さんは嬉しそうに頷いた。
ラテが運ばれてくる。
ふわふわの泡に、ハートのラテアートが描かれていた。
「……これ」
「記念なので」
胸がまた跳ねる。
「可愛いです」
「よかった」
ラテをひと口飲む。
思ったより甘い。
でも嫌じゃなかった。
むしろ、少しだけ嬉しい甘さだった。
◇
「雨宮さん」
「はい?」
「恋人になって、何か変わりました?」
突然の質問に、少し戸惑う。
「変わった……というか……」
言葉を探す。
でもうまく出てこない。
「まだ慣れてなくて……」
正直に言うと、悠真さんは優しく笑った。
「慣れなくていいですよ」
「え……」
「ゆっくりでいいです。急がなくていいです」
その言葉が、胸に静かに染みていく。
「雨宮さんのペースでいいんです」
「……はい」
昨日より、少しだけ涙が出そうになった。
嬉しくて。
安心して。
怖くなくなって。
恋人らしさって、こういうことなのかもしれない。
◇
帰り道。
雨は本降りになっていた。
「送りますね」
「……お願いします」
二人で傘に入る。
昨日より近い距離。
肩が触れそうで触れない。
「雨宮さん」
「はい?」
「今日のラテ、また作りますね」
「……はい」
「記念じゃなくても、飲んでほしいので」
その言葉に、胸がまた静かに満たされる。
アパートが見えてくる。
別れ際が近づくほど、少しだけ寂しくなる。
「また明日も来ていいですか?」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
悠真さんは、雨の中で静かに笑った。
「もちろんです」
その笑顔が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、ラテの甘さがまだ少し残っていた。
レシピノートを開く。
新しいページに、そっと書き足す。
『恋人らしさって、まだよく分からないけれど
桐生さんとなら、ゆっくり分かっていけそうです。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の夜は、今日も静かに優しかった。
けれど、生活が劇的に変わるわけではない。
図書館へ行き、仕事をして、帰る。
その途中でカフェ・ルーチェに寄る。
ただ、その“寄る理由”が少しだけ変わった。
会いたいから。
話したいから。
昨日の続きが知りたいから。
そんな気持ちが、静かに胸の奥で膨らんでいた。
◇
夕方。
カフェの扉を開けると、コーヒーの香りがふわりと広がった。
「いらっしゃい」
悠真さんが、いつものように笑う。
その笑顔を見るだけで、胸が少し温かくなる。
「今日も来てくれて嬉しいです」
「……来たくなったので」
言葉にすると照れくさい。
でも嘘じゃなかった。
「座っててください。新しいラテ、試作したんです」
「新しいラテ……?」
「恋人になった記念に、ちょっと甘めです」
心臓が跳ねた。
恋人になった記念。
その言葉だけで、胸がじんわりと熱くなる。
◇
窓際の席に座ると、雨がぽつりと落ちた。
今日も降るらしい。
「雨宮さん、甘いの苦手って言ってましたけど……」
「はい」
「でも、恋人になった記念なら飲んでくれるかなって」
悠真さんは照れたように笑った。
その笑顔が、昨日より少しだけ近く感じた。
「……飲みます」
そう答えると、悠真さんは嬉しそうに頷いた。
ラテが運ばれてくる。
ふわふわの泡に、ハートのラテアートが描かれていた。
「……これ」
「記念なので」
胸がまた跳ねる。
「可愛いです」
「よかった」
ラテをひと口飲む。
思ったより甘い。
でも嫌じゃなかった。
むしろ、少しだけ嬉しい甘さだった。
◇
「雨宮さん」
「はい?」
「恋人になって、何か変わりました?」
突然の質問に、少し戸惑う。
「変わった……というか……」
言葉を探す。
でもうまく出てこない。
「まだ慣れてなくて……」
正直に言うと、悠真さんは優しく笑った。
「慣れなくていいですよ」
「え……」
「ゆっくりでいいです。急がなくていいです」
その言葉が、胸に静かに染みていく。
「雨宮さんのペースでいいんです」
「……はい」
昨日より、少しだけ涙が出そうになった。
嬉しくて。
安心して。
怖くなくなって。
恋人らしさって、こういうことなのかもしれない。
◇
帰り道。
雨は本降りになっていた。
「送りますね」
「……お願いします」
二人で傘に入る。
昨日より近い距離。
肩が触れそうで触れない。
「雨宮さん」
「はい?」
「今日のラテ、また作りますね」
「……はい」
「記念じゃなくても、飲んでほしいので」
その言葉に、胸がまた静かに満たされる。
アパートが見えてくる。
別れ際が近づくほど、少しだけ寂しくなる。
「また明日も来ていいですか?」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
悠真さんは、雨の中で静かに笑った。
「もちろんです」
その笑顔が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、ラテの甘さがまだ少し残っていた。
レシピノートを開く。
新しいページに、そっと書き足す。
『恋人らしさって、まだよく分からないけれど
桐生さんとなら、ゆっくり分かっていけそうです。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の夜は、今日も静かに優しかった。



