翌日。
図書館の窓から見える空は、薄い灰色をしていた。
「降るかな……」
小さく呟く。
天気予報では“夕方から雨”と出ていた。
雨。
それだけで胸が少しざわつく。
雨の日は、いつも何かが起きる気がしてしまう。
昨日、レシピノートに書いた言葉を思い出す。
『また一緒に歩きたいです。』
書いた瞬間は恥ずかしかったけれど、
今はその気持ちが胸の奥で静かに膨らんでいた。
◇
仕事を終えて外へ出ると、空はさらに暗くなっていた。
風も少し冷たい。
「降りそう……」
鞄の中の折りたたみ傘を確かめる。
昨日は“念のため”だったけれど、今日は本当に必要かもしれない。
駅へ向かう道を歩く。
カフェ・ルーチェの前を通ると、店内の明かりが温かく見えた。
入ろうか。
やめようか。
その迷いは、昨日より少しだけ短かった。
私は扉を開けた。
「いらっしゃい」
悠真さんが、いつものように笑った。
その笑顔を見るだけで、胸が少し軽くなる。
「今日、雨降りそうですね」
「はい。帰り、気をつけてくださいね」
その言葉が、昨日より少しだけ恋人らしく聞こえた。
◇
窓際の席に座ると、ぽつり、と窓に雨粒が落ちた。
「……降ってきましたね」
「ですね」
悠真さんはコーヒーを淹れながら、ちらりと窓を見た。
「帰り、送りますよ」
心臓が跳ねた。
「え、でも……」
「昨日も散歩したし、今日も一緒に帰れたら嬉しいです」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
嬉しい。
でも少し怖い。
でもやっぱり嬉しい。
「……お願いします」
小さく答えると、悠真さんは安心したように笑った。
◇
閉店後。
雨は本降りになっていた。
「傘、あります?」
「折りたたみが……」
鞄から取り出した傘は、思ったより小さかった。
悠真さんは少し笑った。
「それだと濡れますね」
「え……」
「こっち入ってください」
差し出されたのは、悠真さんの黒い傘。
昨日よりも、ずっと自然な仕草だった。
二人で傘に入る。
肩が触れそうで触れない距離。
雨音が静かに響く。
「昨日より近いですね」
悠真さんが冗談めかして言う。
「……そうですね」
照れながら答えると、悠真さんは少しだけ傘を寄せた。
「濡れないように」
その優しさが、胸に静かに染みていく。
◇
帰り道。
雨は強いのに、心は不思議と穏やかだった。
「雨宮さん」
「はい?」
「今日も来てくれて嬉しかったです」
その言葉は、昨日よりずっと近く感じた。
「……私も、嬉しかったです」
言葉にすると、胸が少し熱くなる。
アパートが見えてくる。
別れ際が近づくほど、少しだけ寂しくなる。
「また……来てもいいですか?」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
悠真さんは、雨の中で静かに笑った。
「もちろんです」
その笑顔が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、雨音が少しだけ心地よく聞こえた。
レシピノートを開く。
昨日書いた言葉の隣に、そっと書き足す。
『今日の帰り道も、好きでした。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の夜は、いつも何かが起きる。
その予感は、今日も当たっていた。
図書館の窓から見える空は、薄い灰色をしていた。
「降るかな……」
小さく呟く。
天気予報では“夕方から雨”と出ていた。
雨。
それだけで胸が少しざわつく。
雨の日は、いつも何かが起きる気がしてしまう。
昨日、レシピノートに書いた言葉を思い出す。
『また一緒に歩きたいです。』
書いた瞬間は恥ずかしかったけれど、
今はその気持ちが胸の奥で静かに膨らんでいた。
◇
仕事を終えて外へ出ると、空はさらに暗くなっていた。
風も少し冷たい。
「降りそう……」
鞄の中の折りたたみ傘を確かめる。
昨日は“念のため”だったけれど、今日は本当に必要かもしれない。
駅へ向かう道を歩く。
カフェ・ルーチェの前を通ると、店内の明かりが温かく見えた。
入ろうか。
やめようか。
その迷いは、昨日より少しだけ短かった。
私は扉を開けた。
「いらっしゃい」
悠真さんが、いつものように笑った。
その笑顔を見るだけで、胸が少し軽くなる。
「今日、雨降りそうですね」
「はい。帰り、気をつけてくださいね」
その言葉が、昨日より少しだけ恋人らしく聞こえた。
◇
窓際の席に座ると、ぽつり、と窓に雨粒が落ちた。
「……降ってきましたね」
「ですね」
悠真さんはコーヒーを淹れながら、ちらりと窓を見た。
「帰り、送りますよ」
心臓が跳ねた。
「え、でも……」
「昨日も散歩したし、今日も一緒に帰れたら嬉しいです」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
嬉しい。
でも少し怖い。
でもやっぱり嬉しい。
「……お願いします」
小さく答えると、悠真さんは安心したように笑った。
◇
閉店後。
雨は本降りになっていた。
「傘、あります?」
「折りたたみが……」
鞄から取り出した傘は、思ったより小さかった。
悠真さんは少し笑った。
「それだと濡れますね」
「え……」
「こっち入ってください」
差し出されたのは、悠真さんの黒い傘。
昨日よりも、ずっと自然な仕草だった。
二人で傘に入る。
肩が触れそうで触れない距離。
雨音が静かに響く。
「昨日より近いですね」
悠真さんが冗談めかして言う。
「……そうですね」
照れながら答えると、悠真さんは少しだけ傘を寄せた。
「濡れないように」
その優しさが、胸に静かに染みていく。
◇
帰り道。
雨は強いのに、心は不思議と穏やかだった。
「雨宮さん」
「はい?」
「今日も来てくれて嬉しかったです」
その言葉は、昨日よりずっと近く感じた。
「……私も、嬉しかったです」
言葉にすると、胸が少し熱くなる。
アパートが見えてくる。
別れ際が近づくほど、少しだけ寂しくなる。
「また……来てもいいですか?」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
悠真さんは、雨の中で静かに笑った。
「もちろんです」
その笑顔が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、雨音が少しだけ心地よく聞こえた。
レシピノートを開く。
昨日書いた言葉の隣に、そっと書き足す。
『今日の帰り道も、好きでした。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の夜は、いつも何かが起きる。
その予感は、今日も当たっていた。



