カフェ・ルーチェでの散歩を終えた翌日。
私はいつもより少し早く目が覚めた。
昨日の帰り道のことを思い出す。
手をつないだ温かさ。
雨上がりの風。
隣を歩く足音。
胸の奥が、また静かに満たされていく。
「……今日も会えるのかな」
恋人になったのに、まだ自分から連絡する勇気はない。
でも、会いたい気持ちは昨日よりずっと強かった。
◇
仕事を終えて外へ出ると、空は薄い雲に覆われていた。
雨は降りそうで降らない。
そんな曖昧な天気が、今の自分みたいだと思う。
カフェの前まで来ると、扉の向こうからコーヒーの香りが漂ってきた。
「……入ろう」
小さく息を吸って、扉を開ける。
「いらっしゃい」
悠真さんが、昨日と同じ笑顔で迎えてくれた。
その笑顔を見るだけで、胸が少し温かくなる。
「今日も来てくれて嬉しいです」
「……来たくなったので」
言葉にすると照れくさい。
でも嘘じゃなかった。
「ちょうどいいものがあります」
悠真さんはカウンターの下から、一冊のノートを取り出した。
見覚えのある表紙。
二人で書き続けてきたレシピノートだった。
「新しいページ、作りませんか?」
「新しいページ……?」
「恋人になった記念に」
その言葉に、胸が跳ねた。
恋人。
まだ慣れない響き。
でも嫌いじゃない。
「……何を書けばいいんですか?」
「何でもいいですよ。今日のことでも、好きな味でも」
悠真さんは照れたように笑った。
「雨宮さんの字、好きなんです」
心臓がうるさくなる。
そんなことを言われたのは初めてだった。
「じゃあ……少しだけ」
私はペンを受け取った。
ページを開く。
白い紙が、静かに私を待っている。
何を書こう。
迷いながら、ゆっくり文字を置く。
『雨上がりの散歩、とても楽しかったです。
また一緒に歩きたいです。』
書き終えると、胸が少し熱くなった。
こんなふうに素直な言葉を書くのは、初めてかもしれない。
「……見てもいいですか?」
悠真さんがそっと覗き込む。
私は少しだけ頷いた。
読み終えた悠真さんは、静かに笑った。
「嬉しいです」
その声が、昨日より少しだけ近く感じた。
◇
「じゃあ、僕も書きますね」
悠真さんはペンを取り、私の文字の隣にゆっくり書き始めた。
『雨宮さんと歩く帰り道が、一番好きです。
また一緒に歩いてください。』
読み終えた瞬間、胸がぎゅっとなる。
昨日の帰り道の温かさが、また蘇る。
「……はい」
小さく答えると、悠真さんは照れたように笑った。
「これからも、ページ増やしましょうね」
「……はい」
ノートの白いページは、まだたくさん残っている。
その余白が、これからの時間を静かに示しているようだった。
◇
帰り道。
空は曇りのまま。
雨は降らなかった。
でも心の中は、昨日より少しだけ“好きでいっぱい”になっていた。
私はいつもより少し早く目が覚めた。
昨日の帰り道のことを思い出す。
手をつないだ温かさ。
雨上がりの風。
隣を歩く足音。
胸の奥が、また静かに満たされていく。
「……今日も会えるのかな」
恋人になったのに、まだ自分から連絡する勇気はない。
でも、会いたい気持ちは昨日よりずっと強かった。
◇
仕事を終えて外へ出ると、空は薄い雲に覆われていた。
雨は降りそうで降らない。
そんな曖昧な天気が、今の自分みたいだと思う。
カフェの前まで来ると、扉の向こうからコーヒーの香りが漂ってきた。
「……入ろう」
小さく息を吸って、扉を開ける。
「いらっしゃい」
悠真さんが、昨日と同じ笑顔で迎えてくれた。
その笑顔を見るだけで、胸が少し温かくなる。
「今日も来てくれて嬉しいです」
「……来たくなったので」
言葉にすると照れくさい。
でも嘘じゃなかった。
「ちょうどいいものがあります」
悠真さんはカウンターの下から、一冊のノートを取り出した。
見覚えのある表紙。
二人で書き続けてきたレシピノートだった。
「新しいページ、作りませんか?」
「新しいページ……?」
「恋人になった記念に」
その言葉に、胸が跳ねた。
恋人。
まだ慣れない響き。
でも嫌いじゃない。
「……何を書けばいいんですか?」
「何でもいいですよ。今日のことでも、好きな味でも」
悠真さんは照れたように笑った。
「雨宮さんの字、好きなんです」
心臓がうるさくなる。
そんなことを言われたのは初めてだった。
「じゃあ……少しだけ」
私はペンを受け取った。
ページを開く。
白い紙が、静かに私を待っている。
何を書こう。
迷いながら、ゆっくり文字を置く。
『雨上がりの散歩、とても楽しかったです。
また一緒に歩きたいです。』
書き終えると、胸が少し熱くなった。
こんなふうに素直な言葉を書くのは、初めてかもしれない。
「……見てもいいですか?」
悠真さんがそっと覗き込む。
私は少しだけ頷いた。
読み終えた悠真さんは、静かに笑った。
「嬉しいです」
その声が、昨日より少しだけ近く感じた。
◇
「じゃあ、僕も書きますね」
悠真さんはペンを取り、私の文字の隣にゆっくり書き始めた。
『雨宮さんと歩く帰り道が、一番好きです。
また一緒に歩いてください。』
読み終えた瞬間、胸がぎゅっとなる。
昨日の帰り道の温かさが、また蘇る。
「……はい」
小さく答えると、悠真さんは照れたように笑った。
「これからも、ページ増やしましょうね」
「……はい」
ノートの白いページは、まだたくさん残っている。
その余白が、これからの時間を静かに示しているようだった。
◇
帰り道。
空は曇りのまま。
雨は降らなかった。
でも心の中は、昨日より少しだけ“好きでいっぱい”になっていた。



