朝から雨が降っていた。
窓を叩く雨音は強くも弱くもなく、
ただ静かに、一定のリズムで世界を濡らしていた。
「……雨の日って、どうしてこんなに気持ちが揺れるんだろう」
昨日の不安を思い出す。
未来の話が嬉しくて、怖かった。
でも、悠真さんの言葉でその怖さは少しだけ薄れた。
それでも、雨の日は胸の奥が少しざわつく。
◇
夕方。
カフェ・ルーチェの扉を開けると、
雨の匂いとコーヒーの香りが混ざり合って、
どこか懐かしい空気が広がっていた。
「いらっしゃい」
悠真さんが、雨の日特有の柔らかい笑顔で迎えてくれた。
「雨、すごいですね」
「はい……」
「来てくれて嬉しいです」
その言葉だけで、胸が少し軽くなる。
「座っててください。雨の日は、少し甘めのラテにしてます」
「……雨の日限定ですか?」
「雨宮さん限定です」
胸が跳ねた。
◇
窓際の席に座ると、
雨粒がガラスを伝ってゆっくり流れていく。
「雨宮さん」
「はい?」
「昨日のこと、ずっと考えてました」
胸が少しだけざわつく。
「不安にさせてしまったかなって」
「……そんなことないです」
「でも、雨宮さんが怖いと思うなら、
僕はその怖さをちゃんと受け止めたいです」
雨音が静かに響く。
その音が、ふたりの距離を少しだけ近づける。
「雨宮さん」
「はい」
「僕、約束したいことがあります」
胸が跳ねる。
「これからも……雨宮さんの不安をちゃんと聞きます」
「……」
「言えない日があってもいいです。
言える日まで待ちます」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「雨宮さんがゆっくり進むなら、
僕もゆっくり進みます」
「……桐生さん」
声が震える。
「雨の日でも、晴れの日でも、
雨宮さんの隣にいたいです」
その言葉は、雨音より静かに、でも確かに胸に届いた。
◇
閉店後。
外はまだ雨だった。
「今日は……歩いて帰りませんか?」
「雨、降ってますけど……」
「雨の日の帰り道、好きなんです」
胸がまた跳ねる。
「……はい」
二人で傘に入る。
雨音が傘の布を叩いて、静かなリズムを刻む。
「雨宮さん」
「はい?」
「約束、してくれますか?」
「……約束?」
「不安になったら、ちゃんと言うって」
雨音が少し強くなる。
「……はい」
「ゆっくりでいいので」
「……ゆっくり言います」
悠真さんは静かに笑った。
「それで十分です」
◇
隣同士の部屋の前で立ち止まる。
雨音が遠くで響いている。
「じゃあ……また明日」
「……はい」
昨日より少しだけ深い「また明日」。
その言葉が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、レシピノートを開いた。
今日は、悠真さんの書き込みが先にあった。
◆レシピノート(交換日記)
桐生悠真
『雨の日は気持ちが揺れやすいですよね。
でも、その揺れも含めて雨宮さんを大切にしたいです。
不安になったら、ゆっくりでいいので言ってください。
僕は離れません。』
雨宮陽菜
『雨の日は少し怖いけれど、
桐生さんの言葉で胸の奥が静かになりました。
ゆっくり、不安を言えるようになりたいです。
桐生さんとなら、できる気がします。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の日は、今日も静かに恋を進めてくれた。
窓を叩く雨音は強くも弱くもなく、
ただ静かに、一定のリズムで世界を濡らしていた。
「……雨の日って、どうしてこんなに気持ちが揺れるんだろう」
昨日の不安を思い出す。
未来の話が嬉しくて、怖かった。
でも、悠真さんの言葉でその怖さは少しだけ薄れた。
それでも、雨の日は胸の奥が少しざわつく。
◇
夕方。
カフェ・ルーチェの扉を開けると、
雨の匂いとコーヒーの香りが混ざり合って、
どこか懐かしい空気が広がっていた。
「いらっしゃい」
悠真さんが、雨の日特有の柔らかい笑顔で迎えてくれた。
「雨、すごいですね」
「はい……」
「来てくれて嬉しいです」
その言葉だけで、胸が少し軽くなる。
「座っててください。雨の日は、少し甘めのラテにしてます」
「……雨の日限定ですか?」
「雨宮さん限定です」
胸が跳ねた。
◇
窓際の席に座ると、
雨粒がガラスを伝ってゆっくり流れていく。
「雨宮さん」
「はい?」
「昨日のこと、ずっと考えてました」
胸が少しだけざわつく。
「不安にさせてしまったかなって」
「……そんなことないです」
「でも、雨宮さんが怖いと思うなら、
僕はその怖さをちゃんと受け止めたいです」
雨音が静かに響く。
その音が、ふたりの距離を少しだけ近づける。
「雨宮さん」
「はい」
「僕、約束したいことがあります」
胸が跳ねる。
「これからも……雨宮さんの不安をちゃんと聞きます」
「……」
「言えない日があってもいいです。
言える日まで待ちます」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「雨宮さんがゆっくり進むなら、
僕もゆっくり進みます」
「……桐生さん」
声が震える。
「雨の日でも、晴れの日でも、
雨宮さんの隣にいたいです」
その言葉は、雨音より静かに、でも確かに胸に届いた。
◇
閉店後。
外はまだ雨だった。
「今日は……歩いて帰りませんか?」
「雨、降ってますけど……」
「雨の日の帰り道、好きなんです」
胸がまた跳ねる。
「……はい」
二人で傘に入る。
雨音が傘の布を叩いて、静かなリズムを刻む。
「雨宮さん」
「はい?」
「約束、してくれますか?」
「……約束?」
「不安になったら、ちゃんと言うって」
雨音が少し強くなる。
「……はい」
「ゆっくりでいいので」
「……ゆっくり言います」
悠真さんは静かに笑った。
「それで十分です」
◇
隣同士の部屋の前で立ち止まる。
雨音が遠くで響いている。
「じゃあ……また明日」
「……はい」
昨日より少しだけ深い「また明日」。
その言葉が、雨の夜を優しく照らしていた。
◇
部屋に戻ると、レシピノートを開いた。
今日は、悠真さんの書き込みが先にあった。
◆レシピノート(交換日記)
桐生悠真
『雨の日は気持ちが揺れやすいですよね。
でも、その揺れも含めて雨宮さんを大切にしたいです。
不安になったら、ゆっくりでいいので言ってください。
僕は離れません。』
雨宮陽菜
『雨の日は少し怖いけれど、
桐生さんの言葉で胸の奥が静かになりました。
ゆっくり、不安を言えるようになりたいです。
桐生さんとなら、できる気がします。』
ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。
雨の日は、今日も静かに恋を進めてくれた。



