2回振ったくせに、なにを言うの?

(仲野悠斗 目線)

まさか自分が、あの花音に対してこんなにも情けない立場になるとは、少し前までの俺なら絶対に想像もしなかっただろう。
いつだってあいつは俺の隣にいて、どんなに冷たくあしらっても、馬鹿なことを言っても、結局は呆れたような笑顔で許してくれていた。だから、「好きだ」と言われ続けたあの頃の俺は、それが永遠に続くものだと心のどこかで慢心していたんだと思う。「幼馴染だから」という都合のいい言い訳を盾にして、花音のまっすぐな想いから逃げ続けていたのは、他でもない俺自身だった。
だけど、ある日を境に花音が俺を真っ直ぐに見なくなり、挨拶すら適当に済ませてすれ違うようになったとき、俺の日常は音を立てて崩れ去った。朝、窓を叩いてもあいつはいない。放課後、教室を覗いても俺を待っている影はない。他の男と楽しそうに笑う花音を見た瞬間、胸の奥が焼けるような、引き裂かれるような得体の知れない痛みに襲われた。あれほど嫌だった「嫉妬」という感情が、気づけば俺のすべてを支配していた。失ってはじめて、俺にとって花音がどれほどかけがえのない存在だったのか、痛いほど思い知らされたというわけだ。2回も振っておきながら、今さら「好きだ」なんて都合が良すぎることは自分でも痛いほどわかっている。だからこそ、これからはあの頃の何倍も、いや、一生かけて花音を大切にすると決めている。あのとき、雨の中で震えながら必死に掴んだ細い手首の感触を、俺は一生忘れないだろう。今度は俺が追いかける番だし、花音を不安にさせるような真似はもう絶対にしない。「2回振ったくせに」なんて、顔を真っ赤にして文句を言うあいつの横顔は、相変わらずちょっと生意気で、そして世界で一番愛おしい。不器用な俺たちの恋は人より少し遠回りをしたけれど、結果オーライってことでいいよな。これからはもうすれ違うことも、変なプライドを張ることもやめにして、ただ真っ直ぐに隣を歩いていこう。なあ、花音。これからもずっと、俺の隣でその呆れたような笑顔を見せてくれよ。次に泣くとしたら、それは悲しい涙じゃなくて、俺が君を幸せにしたときの感動の涙だけにすると誓うから。さて、今日もそろそろ迎えに行く時間だ。呆れられようが何しようが、俺は一生、花音の専属ストーカー(自称・彼氏)でいてやるんだからな。






(國枝花音 目線)

あのときの私、本当に我ながらよく頑張ったし、よくぞあそこで折れずにプライドを保ったなと思う。中学の卒業式と高校の入学式、人生で一番勇気を振り絞ったあの告白を、悠斗があんなに軽く、そして冷たくあしらったときの絶望感は今でも忘れられない。「幼馴染だから無理」なんて、言われたこっちの身にもなってよって、当時どれだけ枕を涙で濡らしたことか。「もう絶対に、あんな奴のことは好きにならない。これからはただの隣の家のお騒がせな男として生きてやる!」って、心に誓ったあの日の決意は本物だったはずなのに。人間って不思議なもので、こっちが一切追わなくなった途端、今度はあっちが焦り出すんだから人生何が起こるかわからない。いつも余裕綽々だった悠斗が、私を必死な目で探したり、他の男友達と話しているだけであんなに分かりやすく不機嫌になったりする姿は、正直ちょっと面白かった。「2回振ったくせに、今さらなにを言うのよ!」って、あのときの私の心のツッコミは、全人類が共感してくれる正論だったと思う。雨の日の放課後、ずぶ濡れになりながら手首を掴んできたあのときの悠斗は、昔のクールな面影なんて微塵もなくて、ただ必死で、なんだか少し小さく見えた。あんな顔をされたら、これまで溜め込んでいた恨み節も、意地悪してやろうという決心も、すべて綺麗に溶けていってしまうじゃない。立場が完全に逆転して、今度は悠斗が毎日私の機嫌を取るように必死になっている姿を見ていると、青春って案外悪くないななんて思ったりもする。クレープを買ってあげると言われてもすぐには頷かず、わざと意地悪な返事をしてみせる私の性格も、少しは悪くなったかもしれないけれど、これくらいはご褒美として許してほしい。だって、あんなに痛い思いをさせられたんだから、これくらいでちょうどおあいこだ。夕日に染まる帰り道、まっすぐな瞳で「ずっと、そばにいてくれ」と言ってくれたあの言葉は、これまで聞いたどんな言葉よりも温かかった。不器用で、プライドが高くて、素直になるのに何年もかかったこの馬鹿な幼馴染は、結局のところ、世界で一番私を大切にしてくれる人なのだから。「今度こそ私を泣かせたら、絶対に許さないんだからね」って釘を刺したときの、悠斗のちょっとホッとしたような、でもとびきり優しい笑顔は一生忘れない。遠回りをしたけれど、二人が本当の意味で対等になれたのは、あの二度の失恋があったからこそなのだと思える。これからはもう、私が一方的に追いかけるだけの関係じゃない。お互いがちゃんと向き合って、同じ歩幅で歩いていける。隣を歩く悠斗の肩が、ふとした拍子に私の肩に触れるたび、胸の奥が甘くキュッと締め付けられる。「2回振られたくせに」なんて文句を言いながらも、結局は彼の隣を陣取っている私は、やっぱり昔からずっと、悠斗のことが好きでたまらないみたい。さあ、これからの物語はもうすれ違ったりしない。私と悠斗の、ちょっと賑やかで最高に甘い青春の続きを、今度は二人でしっかりと歩いていこう。ねぇ、悠斗?