「うわ……広い……これが県大会の会場……」
東中学校のメンバーが足を踏み入れた県大会のメインアリーナは、地区予選とは比べ物にならないほどの熱気と、巨大な観客席に囲まれていた。
選手たちの緊張感が高まる中、乙葉は自分のシューズの紐をしっかりと結び直した。
「乙葉、緊張してる?」
梨央奈が心配そうに覗き込んでくる。乙葉は首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。……ただ、少しだけ、胸がざわつきます」
「ざわつく?」
「はい。……あの、私、前のチームの影から逃げ切れたのかなって」
乙葉のその言葉に、梨央奈は優しく微笑んで言った。
「大丈夫。今のあなたには、私たちがいる。それに、今のあなたはもう、あの頃の『何もできなかった小さな女の子』じゃない。誇りを持って戦いなさい」
「……はいっ!」
しかし、その直後だった。
控室の廊下を歩いていた東中の一行の前に、青と白を基調とした洗練されたジャージを着た一団が通りかかった。
胸元に誇らしげに輝く、見慣れたエンブレム。 ――「愛原クラブ」。
乙葉の足が、ピタッと止まった。
その一団の先頭を歩いていたのは、かつて乙葉を「背が低いから」という理由で冷たく切り捨て、一度も試合に使わなかったあの専属コーチだった。
コーチは、すれ違いざまに東中の生徒たちに目を向け、そして――乙葉の姿でピタリと動きを止めた。
「……おい」
コーチが冷たい声を漏らす。
「お前……星坂、か?」
その声に、愛原クラブの他のメンバーたちも足を止め、一斉に乙葉の方を振り返った。
かつてのチームメイトたちが、驚愕の表情を浮かべている。
「嘘……なんで星坂が、ここに……しかも、東中のスタメンで……?」
「あんなチビが、リベロで試合に出てるとかありえないでしょ……」
ざわめく愛原クラブの選手たちを無視し、コーチは鼻で笑うようにして乙葉を見下ろした。
「ほう、東中に拾ってもらったのか。だが、所詮は125センチの縮れ麺みたいな身体だ。県大会の荒波で、どうせすぐに使い物にならなくなって泣きを見るだけだろうに」
侮蔑を含んだ、冷酷な言葉。
その瞬間、乙葉の背後に立っていた梨央奈の瞳の色が変わった。
「……今、なんて言いました?」
一歩前に出た梨央奈の纏う空気は、凍りつくように鋭く、そして重かった。
「うちの自慢のリベロに向かって、よくそんな軽口が叩けるものですね。その古い頭の固さじゃ、すぐに足元をすくわれますよ」
「なんだと……?」
一触即発の険悪な空気が流れる中、乙葉は震える手で梨央奈の袖をそっと引っ張った。
「……先輩、いいんです。言葉で言い返す必要なんてありません。――あの人たちには、試合のコートで、全部見せつけてやりますから」
乙葉の瞳に宿っていたのは、恐怖でも怯えでもない。
燃え盛るような、静かなる闘志だった。
愛原クラブのコーチは、生意気だと言いたげに不敵な笑みを浮かべ、そのまま去っていった。
「見ていてください。私たちが、あなたたちを叩き潰しますから」 乙葉の背中は、小さくても、誰よりも大きく頼もしく見えていた。
東中学校のメンバーが足を踏み入れた県大会のメインアリーナは、地区予選とは比べ物にならないほどの熱気と、巨大な観客席に囲まれていた。
選手たちの緊張感が高まる中、乙葉は自分のシューズの紐をしっかりと結び直した。
「乙葉、緊張してる?」
梨央奈が心配そうに覗き込んでくる。乙葉は首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。……ただ、少しだけ、胸がざわつきます」
「ざわつく?」
「はい。……あの、私、前のチームの影から逃げ切れたのかなって」
乙葉のその言葉に、梨央奈は優しく微笑んで言った。
「大丈夫。今のあなたには、私たちがいる。それに、今のあなたはもう、あの頃の『何もできなかった小さな女の子』じゃない。誇りを持って戦いなさい」
「……はいっ!」
しかし、その直後だった。
控室の廊下を歩いていた東中の一行の前に、青と白を基調とした洗練されたジャージを着た一団が通りかかった。
胸元に誇らしげに輝く、見慣れたエンブレム。 ――「愛原クラブ」。
乙葉の足が、ピタッと止まった。
その一団の先頭を歩いていたのは、かつて乙葉を「背が低いから」という理由で冷たく切り捨て、一度も試合に使わなかったあの専属コーチだった。
コーチは、すれ違いざまに東中の生徒たちに目を向け、そして――乙葉の姿でピタリと動きを止めた。
「……おい」
コーチが冷たい声を漏らす。
「お前……星坂、か?」
その声に、愛原クラブの他のメンバーたちも足を止め、一斉に乙葉の方を振り返った。
かつてのチームメイトたちが、驚愕の表情を浮かべている。
「嘘……なんで星坂が、ここに……しかも、東中のスタメンで……?」
「あんなチビが、リベロで試合に出てるとかありえないでしょ……」
ざわめく愛原クラブの選手たちを無視し、コーチは鼻で笑うようにして乙葉を見下ろした。
「ほう、東中に拾ってもらったのか。だが、所詮は125センチの縮れ麺みたいな身体だ。県大会の荒波で、どうせすぐに使い物にならなくなって泣きを見るだけだろうに」
侮蔑を含んだ、冷酷な言葉。
その瞬間、乙葉の背後に立っていた梨央奈の瞳の色が変わった。
「……今、なんて言いました?」
一歩前に出た梨央奈の纏う空気は、凍りつくように鋭く、そして重かった。
「うちの自慢のリベロに向かって、よくそんな軽口が叩けるものですね。その古い頭の固さじゃ、すぐに足元をすくわれますよ」
「なんだと……?」
一触即発の険悪な空気が流れる中、乙葉は震える手で梨央奈の袖をそっと引っ張った。
「……先輩、いいんです。言葉で言い返す必要なんてありません。――あの人たちには、試合のコートで、全部見せつけてやりますから」
乙葉の瞳に宿っていたのは、恐怖でも怯えでもない。
燃え盛るような、静かなる闘志だった。
愛原クラブのコーチは、生意気だと言いたげに不敵な笑みを浮かべ、そのまま去っていった。
「見ていてください。私たちが、あなたたちを叩き潰しますから」 乙葉の背中は、小さくても、誰よりも大きく頼もしく見えていた。



