「スパイク打つぞ!」
部内での練習試合。乙葉は、チームの「リベロ」としてコートの最後尾に立っていた。
相手は、チームでも指折りのパワーヒッターである3年生の先輩だ。
「ちっさいからって手加減しないからね!」
バシィッ!!
重い音を立てて放たれた強烈なスパイクは、一直線に乙葉の頭上めがけて襲いかかった。
普通の選手なら恐怖で目を伏せ、はじき飛ばされるような剛速球。
しかし、乙葉の瞳は微動だにしていなかった。
(――ボールの回転、軌道、床からの距離。……ここ!)
シュッ!
驚異的な反射神経で、乙葉の身体が床すれすれへと滑り込む。
ドゴッ……!
床に叩きつけられるはずのボールは、乙葉の腕の角度によって完全に殺され、ふわりと完璧な放物線を描いてセッターの位置へと吸い込まれていった。
「……えっ?」
スパイクを打った先輩が、自分の目を疑うようにぽかんと口を開ける。
体育館にいた全員の動きが、一瞬で止まった。
「……今の、レシーブ……?」
「あんな低い位置から、完全にセッターの頭上に返した……!」
どよめく周囲の部員たちをよそに、乙葉はすっと素早く立ち上がり、何事もなかったかのようにユニフォームの汚れを払った。
コートのネット際でその一部始終を見ていた部長の梨央奈は、たまらず満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「すごい……! ナイスレシーブ、乙葉!」
梨央奈が駆け寄り、乙葉の小さな頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「先輩、やめてください、髪が……」
「いやー、参った! あんな綺麗なレシーブ、うちには誰もできないわ。みんな聞いた!? 乙葉はすごいやつだよ! 練習もしないであんなこと言ってた奴ら、よく見ておきなさい!」
梨央奈の力強い一声に、これまで乙葉を冷ややかに見ていた部員たちも、気まずそうに、しかし認めざるを得ないといった様子でうなずき始めた。
その日の練習後、梨央奈は部室のベンチで乙葉と並んで座り、缶ジュースを差し出した。
「ねえ、乙葉。なんでそんなにレシーブが上手いの?」
「……背が低いから、人一倍、ボールの落下地点に入る練習をしたんです。拾うことしか、私にはできなかったから」
自嘲気味に笑う乙葉の肩を、梨央奈は力強く叩いた。
「違うよ。それはあなたの武器だ。誰も追いつけないスピードと、誰にも真似できない視野の広さ。あなたは私たちの守護神(リベロ)だ。自信を持ちなさい」
部長のその温かくも力強い言葉に、乙葉の胸の奥が熱くなった。
小学校時代、どれだけ願ってももらえなかった「居場所」が、今、この手にある。
乙葉はぐっと拳を握りしめ、小さくうなずいた。
部内での練習試合。乙葉は、チームの「リベロ」としてコートの最後尾に立っていた。
相手は、チームでも指折りのパワーヒッターである3年生の先輩だ。
「ちっさいからって手加減しないからね!」
バシィッ!!
重い音を立てて放たれた強烈なスパイクは、一直線に乙葉の頭上めがけて襲いかかった。
普通の選手なら恐怖で目を伏せ、はじき飛ばされるような剛速球。
しかし、乙葉の瞳は微動だにしていなかった。
(――ボールの回転、軌道、床からの距離。……ここ!)
シュッ!
驚異的な反射神経で、乙葉の身体が床すれすれへと滑り込む。
ドゴッ……!
床に叩きつけられるはずのボールは、乙葉の腕の角度によって完全に殺され、ふわりと完璧な放物線を描いてセッターの位置へと吸い込まれていった。
「……えっ?」
スパイクを打った先輩が、自分の目を疑うようにぽかんと口を開ける。
体育館にいた全員の動きが、一瞬で止まった。
「……今の、レシーブ……?」
「あんな低い位置から、完全にセッターの頭上に返した……!」
どよめく周囲の部員たちをよそに、乙葉はすっと素早く立ち上がり、何事もなかったかのようにユニフォームの汚れを払った。
コートのネット際でその一部始終を見ていた部長の梨央奈は、たまらず満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「すごい……! ナイスレシーブ、乙葉!」
梨央奈が駆け寄り、乙葉の小さな頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「先輩、やめてください、髪が……」
「いやー、参った! あんな綺麗なレシーブ、うちには誰もできないわ。みんな聞いた!? 乙葉はすごいやつだよ! 練習もしないであんなこと言ってた奴ら、よく見ておきなさい!」
梨央奈の力強い一声に、これまで乙葉を冷ややかに見ていた部員たちも、気まずそうに、しかし認めざるを得ないといった様子でうなずき始めた。
その日の練習後、梨央奈は部室のベンチで乙葉と並んで座り、缶ジュースを差し出した。
「ねえ、乙葉。なんでそんなにレシーブが上手いの?」
「……背が低いから、人一倍、ボールの落下地点に入る練習をしたんです。拾うことしか、私にはできなかったから」
自嘲気味に笑う乙葉の肩を、梨央奈は力強く叩いた。
「違うよ。それはあなたの武器だ。誰も追いつけないスピードと、誰にも真似できない視野の広さ。あなたは私たちの守護神(リベロ)だ。自信を持ちなさい」
部長のその温かくも力強い言葉に、乙葉の胸の奥が熱くなった。
小学校時代、どれだけ願ってももらえなかった「居場所」が、今、この手にある。
乙葉はぐっと拳を握りしめ、小さくうなずいた。



