次に繋げるラスト・パス!


体育館の床を叩くボールの音が、耳を刺すように響いていた。



「おい、あの子……新入部員だよな?」



「嘘でしょ、小学生の低学年みたい……。あんなチビがバレー部に入るわけ?」



東中学校の体育館の片隅で、2、3年生の先輩たちが露骨に顔をしかめながらひそひそと囁き合う。



その視線の先で、ひとりの少女がぽつんと立っていた。



星坂乙葉(ほしさか おとは)。身長125センチ。



中学校の女子バレー部に入部してきた彼女の体躯は、周囲の部員たちと比べても頭一つ分どころか、二回り以上小さかった。



「……また、これだ」



乙葉は小さく息を吐き、自分のジャージの裾をきゅっと握りしめた。



小学校時代、彼女は県内でも有名な強豪クラブチーム「愛原クラブ」に所属していた。



人一倍バレーが好きで、誰よりも練習し、誰よりもボールの軌道を研究した。



しかし、残酷なまでに非情な現実が彼女を縛った。



「お前は身長が低すぎる。ブロックの上から打たれるし、スパイクも通用しない。リベロをやるにはレシーブ力がまだ足りない」



当時のコーチは、乙葉の努力を一瞥すらせず、そう言い放った。



試合に出場できるのはいつも高身長の選手ばかり。



乙葉は分厚いベンチコートに包まれ、冷たいパイプ椅子の上で、ただチームメイトの背中を見つめるだけの「お荷物」扱いだった。



コートに立つことすら許されなかったのだ。



「――ねえ、星坂さん、だっけ?」



ふと、目の前を影が遮った。顔を上げると、そこには東中バレー部の部長であり、絶対的セッターとして名高い星野梨央奈が立っていた。



梨央奈は、どこか冷めたような、しかし物事を深く見据えるような鋭い瞳で乙葉を見下ろしている。



「はい……」



「あなた、小学校は愛原クラブだったんだって?」



「……っ。はい。でも、何もさせてもらえませんでした。小さかったから……」



乙葉が身を縮こまらせると、梨央奈は少しだけ目を細め、そして予想外の言葉を口にした。



「ふん。実力も見ないで身長だけで判断するなんて、馬鹿なチームだね」



「え……?」



「うちは違う。大きいだけじゃバレーはできないんだから。――ねえ、乙葉。あなた、レシーブに自信はある?」



梨央奈の問いかけに、乙葉はハッと息を呑んだ。



「……ボールを床に落とさせません。どんなボールだって、拾ってみせます」



その言葉を聞いた瞬間、梨央奈の唇にふっと力強い笑みが浮かんだ。



「その意気だ。じゃあ、まずはその腕で、うちの部員たちを全員黙らせてみなさい」



こうして、125センチの少女の、本当の戦いが始まったのだった。