無口な彼の、静かな執着が甘すぎる。




「待って、長島さん、それは……っ!」

「もう、こうするしかないんですよ……柳さん」




病室に向かおうと一歩踏み出すだけでも、もうすでに全身の震えが止まらなくなっている。

できるだけ発作が起きないように、誰にも迷惑をかけないように――普段から温厚で、一度も嫌なことを言ってきたことのない患者さんの病室へ足を運んだ。



「あ、長島ちゃんだ。いつもお疲れ様」

「……す、末永……さん……」




この人には、嫌なことなんて一度もされたことがない。
ただ「男性」で、「少し年配」というだけ。

たったそれだけの共通点なのに、末永さんの顔すら、昨日の太田さんの顔にオーバーラップして見えてしまう。


――ダメだ。


気づいた時にはもう、膝から完全に力が抜けて崩れ落ちていた。
倒れ込んだ拍子で、処置カートの脇にあった未使用の注射器に体がぶつかり、針がそのまま腕に刺さってしまう。




「長島ちゃん!?大丈夫か!?や、柳さん!長島ちゃん、腕に注射器刺さっちゃって……!力も入らなくなってるみたいだ、なんとかしてやってよ!」




柳さんはただ丁寧に、私の腕の手当をしようとしてくれているだけなのに。

パニックを起こしてしまった私の目には、差し出された柳さんの手すら、あの太田さんと重なって見えてしまった。




「……落ち着いて、長島さん。一旦、場所を移動しましょう」




恐怖で視界がぐにゃりと歪み、そのあとの記憶は途切れ途切れでよく覚えていない。


ただ――気づいた時には、私は再び柳さんの腕の中に固く抱きかかえられていた。


そしてその頭上では、柳さんと看護師長が必死の様相で口論を繰り広げている最中だった。