冷徹営業トップは私の限界オタクでした

日曜日。
陽菜子と神崎は、水族館へ来ていた。
恋人になってから、二度目のデート。
休日ということもあり、館内は家族連れやカップルで賑わっている。

「紅夜くん、見てください。クラゲ、綺麗ですよ。」

「はい。」

青い光に照らされた水槽の中を、半透明のクラゲがゆっくりと漂っている。
陽菜子は水槽へ顔を近づけた。

「なんだかずっと見ていられますね。」

「そうですね。」

「……紅夜くん?」

陽菜子が振り返る。
神崎の視線は、水槽ではなく陽菜子へ向けられていた。

「また私を見てました?」

「……すみません。」

「前の紫陽花のときもそうでしたよね。」

「努力はしているんですが。」

「何の努力ですか。」

陽菜子がくすくすと笑う。
そんな陽菜子を見て、神崎もわずかに口元を緩めた。
少し前までなら。
休日に二人で出かけるだけでも、神崎は何度も限界を迎えていた。
けれど今は、少しだけ違う。
隣を歩く二人の手は、自然につながれていた。
陽菜子はそっと、つないだ手へ視線を落とす。
前回は、自分から勇気を出して『手をつなぎたい』と伝えた。
あれほど緊張したのに。
今日は待ち合わせてしばらくすると、どちらからともなく手をつないでいた。

(……恋人っぽくなってきたかも。)

そう思うと、頬が少しだけ熱くなる。

「陽菜子さん?」

「な、なんでもないです。」

「そうですか?」

神崎が不思議そうに首を傾げた。
陽菜子は、その手を少しだけ強く握った。

「っ……!」

途端に、神崎の肩が跳ねる。

「紅夜くん?」

「大丈夫です。」

「まだ慣れてないんですか?」

「慣れる予定はありません。」

「え?」

「陽菜子さんと手をつないで平然としていられるようになったら、俺は俺ではありません。」

真顔で言い切られ、陽菜子は吹き出した。

「ふふっ。なんですか、それ。」

「重大な問題です。」

「じゃあ、一生慣れないんですか?」

「一生幸せでいられるので、問題ありません。」

そんなことを真顔で言うから。
陽菜子はまた顔が熱くなってしまった。