静かな夜の公園に、草むらから虫の声が響いている。
陽菜子はついに、自分の気持ちを神崎へ伝えた。
――一人の女性として見てほしい。
神崎は暴れる心臓を押さえるように、胸元をぎゅっと掴んだ。
気を抜けば、その場で膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
けれど、自分も伝えなくては。
陽菜子さんは逃げずに伝えてくれた。
なら、自分も逃げてはいけない。
「陽菜子さん。」
神崎は陽菜子へ一歩近づいた。
触れていいのか、一瞬だけ迷った。
それでも神崎は、震える手で陽菜子の頬に触れた。
陽菜子はびくっと肩を揺らしたが、その手を拒むことはしなかった。

「俺はとっくに、陽菜子さんのことを一人の女性として見ていました。」
陽菜子が目を見開く。
「でも怖かったんです。この気持ちを知られたら、陽菜子さんが離れていくんじゃないかって。」
陽菜子は何も言わず、頬に触れる神崎の手へそっと自分の手を重ねた。
その温もりを感じた瞬間、神崎の目がわずかに見開かれる。
逃げない。
それどころか、陽菜子はまっすぐに自分を見つめてくれている。
「陽菜子さんが勇気を出して俺に気持ちを伝えてくれて、死ぬほど嬉しいです。だから、俺も伝えます。」
神崎は一度、息を整えた。
「春宮陽菜子さん。」
「……はい。」
「俺は、陽菜子さんを……愛しています。」
陽菜子の目が大きく見開かれた。
そして、神崎自身も固まった。
(……は?俺は何を口走っているんだ?好きの前に愛してる!?なぜ段階を踏めなかった!!)
陽菜子の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。
「ち、違っ……いや、違わないんですが!」
神崎は慌てて言葉を重ねた。
「好きです!陽菜子さんを、一人の女性として好きなんです!」
「……はい。」
「愛していることに訂正はないんですが……その、順番を完全に間違えました。」
先ほどまで覚悟を決めた表情をしていた神崎が、一転してしどろもどろになる。
そんな神崎を見て、陽菜子はくすっと笑った。
「じゃあ……私も好きで、ちくわくんも私が好きです。」
陽菜子は自分で言いながら、恥ずかしくなったのか少しだけ視線を伏せる。
けれど、すぐに神崎を見つめ直した。
「私たち、両想いってことですよね?」
「……両、想い。」
神崎が呆然と呟く。
その言葉を理解した瞬間、とうとう膝が耐えきれなくなった。
陽菜子の頬から手が離れ、神崎はその場へ崩れ落ちる。
両手で顔を覆い、そのまま動かなくなった。
「ち、ちくわくん!? 大丈夫ですか?」
陽菜子も慌ててしゃがみ込み、顔を覆っている神崎を覗き込んだ。
「待ってください……。まだ処理できてません。」
「え?」
「陽菜子さんが俺を好き……俺も陽菜子さんが好き……両想い……。」
一つずつ確認するように呟く。
「はい。」
陽菜子は楽しそうに笑った。
「……私も、ちくわくんが好きです。」
「っ……!」
神崎の肩が大きく跳ねた。
「何度言うんですか……」
「だって、ちゃんと伝えてなかったので」
「これ以上言われたら、本当に立てなくなります……」
「もう座ってますよ?」
「そうでした……」
陽菜子がまた小さく笑う。
その笑顔を見て、神崎もわずかに口元を緩めた。
ずっと、見ているだけで幸せだった。
陽菜子が笑って会社へ来てくれるだけでいい。
自分の存在なんて知らなくてもいい。
そう思っていたはずだった。
けれど、今は違う。
神崎はゆっくりと顔から手を離した。
「……陽菜子さん。」
「はい。」
「俺、今日はもう限界なんですが……これだけはちゃんと言いたいです。」
神崎はふらつきながら立ち上がった。
陽菜子もそれに合わせて立ち上がる。
二人は再び向き合った。
「俺はずっと、陽菜子さんが幸せなら、それだけでいいと思っていました。」
神崎は陽菜子をまっすぐに見つめる。
「でも今は……見ているだけでは足りません。」
陽菜子の胸が大きく跳ねた。
「もっと近くにいたいです。あなたの隣にいたい。」
神崎は少しだけ緊張したように息を吸った。
「推しとしてじゃなく、一人の男として……俺と付き合ってください。」
陽菜子は一瞬だけ目を見開いた。
付き合う。
その言葉を聞いて、ようやく今までのやり取りが現実として胸へ落ちてくる。
自分と神崎が、恋人になる。
そう思った途端、また頬が熱くなった。
それでも陽菜子は、嬉しそうに笑った。
「はい。よろしくお願いします、ちくわくん。」
「…………。」
神崎が固まる。
「ちくわくん?」
「俺が……陽菜子さんの……彼氏……?」
まだ信じられないように、神崎はその言葉を噛みしめる。
「じゃあ私、もうちくわくんの『推し』じゃなくなるんですか?」
「まさか」
神崎は即答した。
「恋人になっても、陽菜子さんは一生俺の人生最推しです。」
「恋人で、推し?」
「はい。恋人で、人生最推しです。」
陽菜子は堪えきれず笑った。
「ふふっ。ちくわくんらしいですね。」
陽菜子はついに、自分の気持ちを神崎へ伝えた。
――一人の女性として見てほしい。
神崎は暴れる心臓を押さえるように、胸元をぎゅっと掴んだ。
気を抜けば、その場で膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
けれど、自分も伝えなくては。
陽菜子さんは逃げずに伝えてくれた。
なら、自分も逃げてはいけない。
「陽菜子さん。」
神崎は陽菜子へ一歩近づいた。
触れていいのか、一瞬だけ迷った。
それでも神崎は、震える手で陽菜子の頬に触れた。
陽菜子はびくっと肩を揺らしたが、その手を拒むことはしなかった。

「俺はとっくに、陽菜子さんのことを一人の女性として見ていました。」
陽菜子が目を見開く。
「でも怖かったんです。この気持ちを知られたら、陽菜子さんが離れていくんじゃないかって。」
陽菜子は何も言わず、頬に触れる神崎の手へそっと自分の手を重ねた。
その温もりを感じた瞬間、神崎の目がわずかに見開かれる。
逃げない。
それどころか、陽菜子はまっすぐに自分を見つめてくれている。
「陽菜子さんが勇気を出して俺に気持ちを伝えてくれて、死ぬほど嬉しいです。だから、俺も伝えます。」
神崎は一度、息を整えた。
「春宮陽菜子さん。」
「……はい。」
「俺は、陽菜子さんを……愛しています。」
陽菜子の目が大きく見開かれた。
そして、神崎自身も固まった。
(……は?俺は何を口走っているんだ?好きの前に愛してる!?なぜ段階を踏めなかった!!)
陽菜子の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。
「ち、違っ……いや、違わないんですが!」
神崎は慌てて言葉を重ねた。
「好きです!陽菜子さんを、一人の女性として好きなんです!」
「……はい。」
「愛していることに訂正はないんですが……その、順番を完全に間違えました。」
先ほどまで覚悟を決めた表情をしていた神崎が、一転してしどろもどろになる。
そんな神崎を見て、陽菜子はくすっと笑った。
「じゃあ……私も好きで、ちくわくんも私が好きです。」
陽菜子は自分で言いながら、恥ずかしくなったのか少しだけ視線を伏せる。
けれど、すぐに神崎を見つめ直した。
「私たち、両想いってことですよね?」
「……両、想い。」
神崎が呆然と呟く。
その言葉を理解した瞬間、とうとう膝が耐えきれなくなった。
陽菜子の頬から手が離れ、神崎はその場へ崩れ落ちる。
両手で顔を覆い、そのまま動かなくなった。
「ち、ちくわくん!? 大丈夫ですか?」
陽菜子も慌ててしゃがみ込み、顔を覆っている神崎を覗き込んだ。
「待ってください……。まだ処理できてません。」
「え?」
「陽菜子さんが俺を好き……俺も陽菜子さんが好き……両想い……。」
一つずつ確認するように呟く。
「はい。」
陽菜子は楽しそうに笑った。
「……私も、ちくわくんが好きです。」
「っ……!」
神崎の肩が大きく跳ねた。
「何度言うんですか……」
「だって、ちゃんと伝えてなかったので」
「これ以上言われたら、本当に立てなくなります……」
「もう座ってますよ?」
「そうでした……」
陽菜子がまた小さく笑う。
その笑顔を見て、神崎もわずかに口元を緩めた。
ずっと、見ているだけで幸せだった。
陽菜子が笑って会社へ来てくれるだけでいい。
自分の存在なんて知らなくてもいい。
そう思っていたはずだった。
けれど、今は違う。
神崎はゆっくりと顔から手を離した。
「……陽菜子さん。」
「はい。」
「俺、今日はもう限界なんですが……これだけはちゃんと言いたいです。」
神崎はふらつきながら立ち上がった。
陽菜子もそれに合わせて立ち上がる。
二人は再び向き合った。
「俺はずっと、陽菜子さんが幸せなら、それだけでいいと思っていました。」
神崎は陽菜子をまっすぐに見つめる。
「でも今は……見ているだけでは足りません。」
陽菜子の胸が大きく跳ねた。
「もっと近くにいたいです。あなたの隣にいたい。」
神崎は少しだけ緊張したように息を吸った。
「推しとしてじゃなく、一人の男として……俺と付き合ってください。」
陽菜子は一瞬だけ目を見開いた。
付き合う。
その言葉を聞いて、ようやく今までのやり取りが現実として胸へ落ちてくる。
自分と神崎が、恋人になる。
そう思った途端、また頬が熱くなった。
それでも陽菜子は、嬉しそうに笑った。
「はい。よろしくお願いします、ちくわくん。」
「…………。」
神崎が固まる。
「ちくわくん?」
「俺が……陽菜子さんの……彼氏……?」
まだ信じられないように、神崎はその言葉を噛みしめる。
「じゃあ私、もうちくわくんの『推し』じゃなくなるんですか?」
「まさか」
神崎は即答した。
「恋人になっても、陽菜子さんは一生俺の人生最推しです。」
「恋人で、推し?」
「はい。恋人で、人生最推しです。」
陽菜子は堪えきれず笑った。
「ふふっ。ちくわくんらしいですね。」



