記憶の欠片

 会場の空気は、午前中よりもずっと熱を帯びていた。


 競技が進むにつれて、各組の応援にも力が入っていく。


 白組の応援席からは、何度も歓声が上がっていた。


「あとちょっとで、色別リレーだって!」


 日菜がプログラムを見ながら声を上げる。


「ほんとだ」


 私は立ち上がり、少し離れたトラックへ視線を向けた。


 選手たちが並んでいる。


 その中には——湊音くんの姿もあった。


「愛梨、そういえばリレー出るんだったよね?」


「うん、行ってくるね!」


 そうして私はトラックへ移動し、列に合流した。


 やがて、スタートラインに選手たちが並ぶ。


 会場のざわめきが、少しずつ大きくなる。


『位置について——』


 空気が張り詰める。


『よーい!』


 パンッ!


 乾いた音が、アリーナいっぱいに響いた。


「頑張れーー!!」


 一斉に歓声が上がる。


 選手たちが一気に駆け出していく。


 白組の選手が、必死に前を追う。


 バトンが次々と渡され、順位が目まぐるしく入れ替わっていく。


 そして——


「愛梨!」


 自分の名前が呼ばれた。


「次、愛梨だよ!」


「うん!」


 私はトラックへ走り出した。


 前の走者が近づいてくる。


 手を伸ばす。


 バトンが、手のひらに触れた。


「いけーっ!!」


 歓声が背中を押す。


 私は夢中で走った。


 風が頬を撫でて、足音が床を叩く。


 前を見る。


 次の走者が待っている。


 ——湊音くん。


 彼がこちらを見ている。


「星宮、こっち!」


 その声に、私はさらに速度を上げた。


「湊音くん!」


 差し出された手。


 そこへ、バトンを——。


 コツン。


 確かに渡った。


「頼んだ!」


「任せて!」


 湊音くんが駆け出していく。


 私はその背中を見送りながら、息を整えた。


 ほんの一瞬の出来事だったのに。


 胸が、妙に熱かった。


 湊音くんが最後の直線を駆け抜けていく。


 白組の応援席から、大きな歓声が上がった。


「愛梨!」


 戻ってきた私に、日菜が駆け寄ってくる。


「ナイスバトン!」


「ありがと」


「湊音、めちゃくちゃ速かったね」


 「そうだね!」