記憶の欠片

 「えー明日は体育大会です。皆さん、練習の成果を存分に発揮してください。えー、まず体育大会とはですねぇ、えー、様々な——」


 相変わらず要点に辿り着かない校長先生の話を聞き流しながら、私は窓の外を眺めていた。


 明日は体育大会。


 運動はわりと得意な方で、私にとっては学校行事の中でも特に楽しみなイベントのひとつだ。


 「——えー、親睦を深めるという意味がね、えー、ありまして。えーえー、皆さん、でも優勝、取りたいですよね?」


 最後だけやけに力強いその一言に、体育館のあちこちで小さな笑いが起きる。


 学年集会が終わり、体育館を出た瞬間、日菜が我慢できないと言わんばかりに口を開いた。


 「校長先生さ、えーって言い過ぎじゃない?」


 「同じこと思ってた」


 「五十回は言ってたね」


 「数えてたの!?」


 腕を組んで本気で呆れている日菜に、思わず笑ってしまう。


 「でもさ、この学校、イベントは豪華だよね」


 「うん。明日の体育大会も、わざわざ街のアリーナ借りるんでしょ?」


 「そうそう。体育館よりずっと広いらしいよ」


 「楽しみだね。なんか本格的で」


 「うん。……ちょっと緊張するけど」


 「愛梨が?」


 意外そうに聞き返されて、私は小さく笑った。


 「だって、みんなの前で競技するんだよ?」


 「愛梨、運動得意じゃん。絶対大丈夫だって」


 「そういう日菜は?」


 「私は応援担当かな」


 「ふふっ、なにそれ」


 二人で笑いながら、昇降口へ向かう。


 廊下には、明日の体育大会に向けた張り紙や、各クラスの応援メッセージが並んでいた。


 その光景を眺めながら、日菜がふと思い出したように口を開く。


 「そういえば、二年生の行事の校外学習も、すごくない?」


 「確か……皆の計画性とか協調性を鍛えるために、一から旅行プラン立てて、一泊二日の旅行をするんだっけ」


 「そうそう! 行き先も自分たちで決められるんだよね」


 「うん。だからこそ、行ける場所も自由」


 「愛梨はどこ行きたい?」


 少しだけ考えてから、私は窓の外に目を向けた。


 「……まだ分からない。でも、みんなで行ったら楽しそう」


 「じゃあ、今から考えようよ!」


 「気が早いなぁ」


 「だって楽しみじゃん!」


 無邪気に笑う日菜を見て、私もつられて笑った。


 「……二年生になるの、楽しみだね」


 「うん。絶対楽しいよ」


 昇降口へ向かう廊下には、夕方の光が差し込み、明日の準備に浮き立つような空気が漂っていた。


 「明日、頑張ろうね!」


 「うん……!」


 短いやり取りなのに、不思議と胸が温かくなる。


 ——体育大会。


 胸の奥が、わずかにざわつく。


 理由は分からない。


 でも、確かに感じる。


 なにかが起こりそうな予感が、していた。