記憶の欠片

 長い廊下を、息を切らしながら駆け抜ける。


 真新しい上履きが床を叩く音だけが、静かな校舎に響いていた。


 「体育館……体育館……!」


 案内板を頼りに角を曲がると、大きく開いた扉が目に飛び込んでくる。


 「あった……!」


 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。


 入口に立っていた先生と目が合った。


 「す、すみません!」


 何度も頭を下げながら列の最後尾へ滑り込む。


 幸い式はまだ始まったばかりだったようで、先生は苦笑いを浮かべながら「次からは気を付けてね」と小さく頷いた。


 ……よかった。


 迷惑をかけちゃったけど、なんとか間に合った。


 胸をなで下ろし、私は前を向く。


 壇上では校長先生がゆっくりと話し始めていた。


 「皆さん、ご入学おめでとうございます――」


 高校生活への期待。


 仲間との出会い。


 夢に向かって努力すること。


 優しい口調で語られる言葉は、体育館いっぱいに響いていく。


 ……でも。


 少し前まで一年も眠っていた私には、その穏やかな声が子守歌みたいで。


 瞼が、少しずつ重くなる。


 だめ……寝ちゃ……。


 こくっ。


 頭が小さく前へ傾く。


 あと少しだけ……。


 春の暖かな日差しが体育館の窓から差し込み、私は睡魔にゆっくりと包まれていった。