記憶の欠片

 電車に揺られること一時間。


 駅を降りると、潮の香りがふわっと鼻をくすぐった。


 目の前には、どこまでも続く青い海。


 「うわぁ……!」


 思わず声が漏れる。


 太陽の光を受けて、水面がきらきらと輝いていた。


 「早く行こ!」


 日菜が走り出す。


 私たちも笑いながら後を追いかけた。


 着替えを終えて砂浜へ出る。


 海風が心地いい。


 「愛梨!」


 日菜が満面の笑みで駆け寄ってきた。


 「水着、めっちゃ似合ってる!」


 「ほんと?」


 「うん!」


 照れながら笑っていると、不意に視線を感じた。


 月城くんだった。


 一瞬だけ私を見て。


 そのまま固まる。


 ……あれ。


 なんだか様子が変。


 「月城くん?」


 呼ぶと、彼ははっとしたように目を逸らした。


 「……いや」


 耳が、ほんの少し赤い。


 「行こ」


 それだけ言って先に歩いてしまう。


 その後ろ姿を見送りながら、胸が少しだけ高鳴った。


 その様子を少し離れた場所から見ていた湊音くんは、小さく笑う。


 「星宮」


 「ん?」


 「せっかくだし、泳ご」


 そう言って手を差し出してくる。


 私はその手を取って、一緒に波打ち際まで走り出した。


 冷たい海水が足元ではじける。


 「冷たっ!」


 思わず笑うと、湊音くんも楽しそうに笑った。


 その笑い声を聞いて、日菜も駆け寄ってくる。


 「ちょっと待ってー!」


 次の瞬間。


 ばしゃっ!


 日菜が勢いよく水をかけてきた。


 「きゃっ!」


 「やったなー!」


 私も負けじと水をかけ返す。


 気づけば四人ともびしょ濡れになって笑っていた。


 夏の太陽の下。


 波の音と笑い声だけが、どこまでも青い空へ溶けていく。


 この時間が、ずっと続けばいいのに。


 そんなことを思いながら、私はもう一度、大きく笑った。