記憶の欠片

 文化祭、二日目。


 昨日とは比べものにならないほど、校舎は人で溢れていた。


 一般公開の日。


 廊下には他校の制服を着た人や、家族連れの姿も見える。


 あちこちから楽しそうな声が聞こえて、いつもの学校とは別の場所みたいだった。


 「愛梨、次のお客さんお願い!」


 日菜の声に、私は振り向く。


 「はーい!」


 返事をして、笑顔を作る。


 最初は少し恥ずかしかったメイド服も、今では少しだけ慣れてきた気がする。


 注文を聞いて、料理を運んで。


 お客さんの笑顔を見る。


 忙しいはずなのに、不思議と楽しかった。


 「すごく似合ってるね」


 お客さんにそう言われて、少し照れながらお礼を言う。


 こんなふうに誰かと関わること。


 必要とされること。


 それが、胸の奥を温かくしてくれる。


 記憶を失う前の私は、どんな人だったんだろう。


 ふと、そんなことを考える。


 でも、今の私もちゃんとここにいる。


 そう思えた。