湊音side
——踊り場の少し上、手すりの影に、俺は立ち止まっていた。
視線の先にいたのは、同じクラスの月城だった。
そして、その腕の中にいたのは——星宮。
一瞬、足が止まった。
ステンドグラスの光が揺れて、赤や青が床を流れるその中心で二人が一瞬、重なったのを見てしまった。
——抱きしめた、というほどじゃない。
でも、その一連の光景がなぜか、最後まで目に焼きついて離れなかった。
二人が何事もなかったみたいに歩き出して、階段の先へ消えていく。
その背中を見送りながら、俺は無意識に拳を握っていた。
……なんだ、これ。
胸の奥に残る、言葉にできない重たい感じ。
怒りでもないし、焦りとも違う。
ただ、見なきゃよかった、みたいな。
知りたくなかった、みたいな。
理由のないもやもやが、じわじわと広がっていく。
「……くだらね」
小さく呟いて、自分の感情を振り払うように息を吐く。
これは、恋じゃない。
そんな大げさなものじゃない。
ただ、昔の記憶を一緒に共有した相手だから。
それだけだ。
そう言い聞かせながら、俺は色の消えかけた踊り場を後にした。
教室に戻ると、いつもの騒がしさが広がっていた。
文化祭準備の話。
誰が何を担当するか。
そんな会話が飛び交っている。
その中で、月城はいつも通りだった。
「これ、ここに置けばいい?」
「うん、ありがとう」
女子に頼まれれば笑顔で答える。
男子と話す時も、自然に笑っている。
やっぱり、月城は誰にでも優しい。
でも。
俺はさっき見た光景を思い出す。
階段で星宮を助けた時の顔。
あんな焦った表情をする月城を、俺は初めて見た。
普段の余裕のある笑顔とは違う。
必死だった。
まるで、大切なものを失いかけたみたいに。
「……なあ、月城」
声をかけると、月城が振り向く。
「何?」
いつもの優しい顔。
でも、その目の奥には少しだけ疲れた色があった。
「星宮のこと」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、月城の表情が止まった。
「……何」
「いや」
言葉を選ぶ。
「お前、星宮にだけ少し違うよな」
月城は黙った。
否定しない。
それだけで十分だった。
「他の奴には普通なのに」
俺は続ける。
「星宮の前だと、なんか……距離取ってる」
月城は窓の外を見る。
しばらくして、小さく笑った。
「……そう見える?」
その声は、いつもの余裕のあるものじゃなかった。
「見える」
答えると、月城は少しだけ目を伏せた。
「……そっか」
それ以上は言わなかった。
でも、その表情で分かった。
星宮のことを、どうでもいいと思っているわけじゃない。
むしろ逆だ。
大切だからこそ、近づけない。
そんな顔だった。
「……変な奴だな、お前」
思わず呟く。
すると月城は少しだけ笑った。
「お互い様じゃない?」
その言葉に、胸が詰まる。
お互い。
その意味を、俺はすぐに理解した。
俺も月城も、星宮のことを大切に思っている。
でも、簡単には、その気持ちを伝えられない。
理由は違っても。
抱えているものは、少しだけ似ている気がした。
——踊り場の少し上、手すりの影に、俺は立ち止まっていた。
視線の先にいたのは、同じクラスの月城だった。
そして、その腕の中にいたのは——星宮。
一瞬、足が止まった。
ステンドグラスの光が揺れて、赤や青が床を流れるその中心で二人が一瞬、重なったのを見てしまった。
——抱きしめた、というほどじゃない。
でも、その一連の光景がなぜか、最後まで目に焼きついて離れなかった。
二人が何事もなかったみたいに歩き出して、階段の先へ消えていく。
その背中を見送りながら、俺は無意識に拳を握っていた。
……なんだ、これ。
胸の奥に残る、言葉にできない重たい感じ。
怒りでもないし、焦りとも違う。
ただ、見なきゃよかった、みたいな。
知りたくなかった、みたいな。
理由のないもやもやが、じわじわと広がっていく。
「……くだらね」
小さく呟いて、自分の感情を振り払うように息を吐く。
これは、恋じゃない。
そんな大げさなものじゃない。
ただ、昔の記憶を一緒に共有した相手だから。
それだけだ。
そう言い聞かせながら、俺は色の消えかけた踊り場を後にした。
教室に戻ると、いつもの騒がしさが広がっていた。
文化祭準備の話。
誰が何を担当するか。
そんな会話が飛び交っている。
その中で、月城はいつも通りだった。
「これ、ここに置けばいい?」
「うん、ありがとう」
女子に頼まれれば笑顔で答える。
男子と話す時も、自然に笑っている。
やっぱり、月城は誰にでも優しい。
でも。
俺はさっき見た光景を思い出す。
階段で星宮を助けた時の顔。
あんな焦った表情をする月城を、俺は初めて見た。
普段の余裕のある笑顔とは違う。
必死だった。
まるで、大切なものを失いかけたみたいに。
「……なあ、月城」
声をかけると、月城が振り向く。
「何?」
いつもの優しい顔。
でも、その目の奥には少しだけ疲れた色があった。
「星宮のこと」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、月城の表情が止まった。
「……何」
「いや」
言葉を選ぶ。
「お前、星宮にだけ少し違うよな」
月城は黙った。
否定しない。
それだけで十分だった。
「他の奴には普通なのに」
俺は続ける。
「星宮の前だと、なんか……距離取ってる」
月城は窓の外を見る。
しばらくして、小さく笑った。
「……そう見える?」
その声は、いつもの余裕のあるものじゃなかった。
「見える」
答えると、月城は少しだけ目を伏せた。
「……そっか」
それ以上は言わなかった。
でも、その表情で分かった。
星宮のことを、どうでもいいと思っているわけじゃない。
むしろ逆だ。
大切だからこそ、近づけない。
そんな顔だった。
「……変な奴だな、お前」
思わず呟く。
すると月城は少しだけ笑った。
「お互い様じゃない?」
その言葉に、胸が詰まる。
お互い。
その意味を、俺はすぐに理解した。
俺も月城も、星宮のことを大切に思っている。
でも、簡単には、その気持ちを伝えられない。
理由は違っても。
抱えているものは、少しだけ似ている気がした。


