代わりにお願いされた恋なのに、君に沼るなんて聞いてない‼

カフェの窓際。




ぽかんと口を開けたまま固まる私――純玲と、隣で同じようにフリーズしている宙。




私たちの身代わりとして送り込んだはずの親友・明日香と爽は、すっかりいい雰囲気で隣り合って座っていた。



「いや、ちょっと待って! 状況が全く飲み込めないんだけど!」


私は慌ててテーブルに歩寄り、明日香の肩を揺さぶった。



「なんでこうなるの!? 私の代わりにアプリの人と会うはずだったよね? なんであんたがその……いかにも両思いみたいな空気になってるわけ!?」


「あー、落ち着いて! 純玲」


明日香は悪びれる様子もなく、むしろトロ甘い笑みを浮かべて爽の腕にしがみついた。



「結果オーライってやつよ。アプリのメッセージは確かにこの人(宙)だったかもしれないけどさ、実際に目の前に現れた爽が、私のド直球のタイプだったんだもん。運命の出会いってやつ?」



「自分で言うなよ」と、爽が照れくさそうに鼻をこすりながらも、嬉しそうに明日香の頭をポンと撫でた。



そのやり取りがあまりにも自然で、見せつけられるこっちが恥ずかしくなる。




一方、宙も頭をガシガシとかきながら、信じられないといった顔で爽を睨みつけていた。


「お前な……! 俺がどれだけ緊張して、お前に託したと思ってんだよ。裏切ったな?」


「裏切ったって、お前なぁ。あらかじめ『メッセージのテンポが良すぎて自分じゃ無理』って丸投げしたのお前だろ? おかげで俺は、こんな最高な彼女をゲットできたんだから感謝してほしいくらいだわ」


「ぐっ……正論すぎて言い返せねえ……!」


見事にカップルとして成立してしまった親友二人を前に、私と宙は完全に敗北者だった。


「……なんかさ、私たち、完全にいいように使われたピエロじゃない?」


私が乾いた笑いを漏らすと、宙はふっと息をつき、私をじっと見下ろした。


「本当だな。……で、どうする? 身代わり作戦は大失敗に終わったわけだけど」

行き場をなくした私たちを置いて、明日香がスマホ画面をパッと光らせた。


「あ、私たち、今から映画行く約束したから! ごめん、お邪魔虫の元凶二人組はここで解散ね!」


「ちょっと、明日香! 置いていかないでよ!」


「じゃあな、宙! 飯奢ってくれてサンキュー!」

爽が明日香の手を引いて、あっという間にカフェを出ていってしまう。


残されたのは、窓際の席にポツンと座る、元凶の「本命」二人だけだった。



気まずい沈黙が流れる。


テーブルの上には、手つかずのアイスコーヒーが二つ。



「……あのさ」


先に口を開いたのは、宙だった。




彼は気まずそうに視線を泳がせながらも、まっすぐ純玲を見た。



「最初にメッセージくれたの、本当は純玲だよな?」



「……うん、そうだよ。返す言葉のセンスが良すぎて、私なんかじゃ幻滅されるってビビっちゃって……だから、あんな風にお願いしちゃったの」
「……なんだよそれ」


宙は小さく息を吐くと、急に肩の力を抜いて、呆れたように、でもどこか優しく笑った。


「俺も同じだったっての。お前のメッセージ、読むの毎回すっげぇ楽しみだったのに、『実物はもっとつまらない男だったらどうしよう』って怖くなって、爽に押し付けたんだ。……馬鹿だよな、俺たち」

その言葉に、私の胸がトクンと大きく跳ねた。

「……じゃあ、最初から私とやり取りしてたのは、本当に宙くんだったんだ」


「当たり前だろ。他の誰でもない、純玲だよ」

窓から差す午後の光が、宙の横顔を柔らかく照らす。


アプリの画面越しに想像していたよりもずっと優しくて、ちょっと不器用で、でもかっこいい人。


身代わりなんて頼まなければ、最初からこうして二人で笑い合えていたはずなのに。



「……ねえ」


私は少しだけ勇気を出して、テーブル越しに宙のシャツの袖をキュッと掴んだ。


「せっかくここまで来たんだし……身代わりじゃなくて、今度は本当の、私と宙くんで、お茶しない?」



宙は一瞬目を見開いたあと、まるで隠しきれないといった様子で、パッと顔を綻ばせた。


「……っ、大歓迎だ」



すれ違いだらけだったアプリの恋。


だけど、遠回りしたからこそ出会えた奇跡の温度を確かめるように、私たちはようやく、本当の最初の一歩を踏み出したのだった。