これは、診察だ。

「……嘘、でしょ」


総合病院のナースステーション。



葵は2浪の末にようやく手に入れた白衣の袖をぎゅっと握りしめ、目の前の光景に絶句していた。



白衣のポケットに片手を突っ込み、圧倒的な存在感を放ちながら歩いてくる長身の男性。



整った顔立ちは高校時代に一目惚れしたあの頃よりもさらに洗練され、大人の色気を纏っている。



心臓血管外科のエリート医師にして、この病院の若きエース――神堂蓮(36歳)。




(まさか、こんな間近でまた会えるなんて……!)




胸の鼓動がうるさいほどに鳴り響く。



緊張と、あの日の憧れがごちゃ混ぜになり、葵の脳内で何かが盛大にショートした。




その時、よりによってカルートワゴンに足を引っ掛け、葵の体勢が派手に崩れる。





「わっ……きゃっ!」



「おい、危な――」





ガシャーーーンッ!!




盛大にカルテや物品を床にぶちまけ、あろうことか葵は、目の前に立っていた蓮の胸元に勢いよく突撃する形で、思いっきり抱きついてしまった。



静まり返るナースステーション。



他のスタッフが息を呑む中、蓮の冷ややかな声が頭上から降ってくる。





「……何をしている」




「ひゃ、ひゃひゃ、すみませんっ!  転んで、その、あまりにもかっこよくて一目惚れして、看護師になって、好きです!」



――言ってしまった。




パニックのあまり、高校時代からの想いを秒速で自白してしまった葵に、蓮はわずかに眉をひそめ、冷ややかな瞳で葵を見下ろした。




「……頭でも打ったか? 見知らぬ新人に飛びつかれる趣味はない!」



(……ですよね。)



「何より、お前に興味は一ミリもない。……あほが」





容赦ない「あほ」認定。




初日から全職員の前で盛大に大失敗をやらかした葵は、自分の人生の終わりを悟るのであった。