────私のささやかな人生設計は、完全に、跡形もなく崩壊した。
あの日、社長室で叩きつけられた衝撃的な婚姻届宣言から、わずか一日。
私は必要最低限の荷物だけをトランクに詰め込まれ、社長の……いえ、彗さんが生活する超高層タワーマンションへと連行されていた。
────彗さん。
なぜ私が、そんな雲の上の存在の社長を名前で呼んでいるのかというと。
────『夫になる人間をいつまでも"社長"と呼ぶのは変だろう?』
無理やり婚姻届にサインさせられた後に、そんなご指摘を受けたからである。
きっとそれも全て彼の計画のうちなのだろう。
(今更だけど……社長って実はもの凄く俺様で───ドSよね。)
「ひぇっ……」
リビングに一歩足を踏み入れた瞬間、情けない悲鳴が喉から漏れる。
全面ガラス張りの窓から見えるのは、宝石を散りばめたような東京の夜景。
大理石の床はピカピカに磨き上げられ、私の部屋の家賃何ヶ月分だろうと思うようなシックな高級ソファが鎮座している。
(感覚が違いすぎて目眩がする……。私、本当にこんな場所に住むの!?)
いたって普通の平社員である私、森下雛乃には、この空間すべてが現実離れしすぎていた。



