「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね

 中年男性はグレーのスーツ姿。
クラヴァットには緑色の宝石が光り輝いている。

女性の方は紫色の丈の短いジャケットに同色のバッスルスカート姿。
頭の上にはチョコンと、やはり同系色の小さな帽子が乗っている。

いかにも、お金持ちそうな身なりの二人だった。

彼らは何故か酷く怒った様子で私を睨みつけている。

「えぇと……?」

首を傾げると、中年男性(多分父)が横柄な口をきいてきた。

「何をぼさっとしている?  我々をいつまで立たせておくつもりだ」

「早く部屋に通してちょうだい」

多分母親は、つんけんした態度でシッシッと私を部屋の入り口からどかそうとする。

「あ、すみません」

脇に避けると二人はズンズン部屋に入っていき、長ソファに腰を下ろした。

「何をやっている。お前も座りなさい」

男性がギラリと鋭い眼差しを向けてくる。

「は、はい。すみません」

一応謝罪し、ガラス製のテーブル越しに着席する。

(私を「お前」呼ばわりするなんて……うん。きっと両親にちがいない、はず)

それにしても......どうしてこの人たちは、私を睨んでいるのだろう。

やっぱり使用人たちの言う通り、実家からも見捨てられているのかな?
よし、聞いてみよう。

「あの~……」

口を開きかけたとき。

「失礼いたします」

突然部屋にワゴンを押したメイドが現れた。
トレイの上には湯気立つティーカップが三つ。
さらに……。

(あ! あれは!)

三段になっているケーキトレイにはサンドイッチやマフィン、スコーン。ケーキやクッキーなどが美しく盛り付けされている。

(食べ物……食べ物だわ!)

食べ物を目にした瞬間。
もう目の前の両親など、どうでも良くなっていた。

「お待たせいたしました……公爵御夫妻様」

メイドは震えながらケーキスタンドをテーブル中央に乗せ、カップを置いていく。

その様子を黙って見つめる両親。
部屋には甘いお菓子の香りと、
芳醇な飲物の香りが漂う。

(紅茶、紅茶~)

喉も乾いていた私はワクワクしながら紅茶が自分の前にも置かれるのを待つ。

コトリ、とついに私の前にも飲物が置かれた。

「ありがとうございます!」

笑顔でお礼を述べると、何故か三人ともギョッとした表情を私に向ける。

「い、いえ。では失礼いたします!」

バッとメイドは頭を下げるとクルリと背を向け、逃げるように足早に部屋を出て行った。

さて、さっそく……。

「いただきます!」

まず最初にトレー下段の一口サイズのサンドイッチに手を伸ばし、早速口に入れた。

きゅうりの瑞々しさが抜群のサンドイッチ。

(美味し~!)

空腹だった私にとっては、まさに極上の料理。
あっという間に完食する。

(さて、次はどれを食べようかな~)

食べ物を物色していると、不意に声をかけられた。

「……待て。何か我々に言うことはないのか?」

不機嫌な父? の声に顔を上げると、何やら険しい顔で私を見つめている。
隣に座る母も然り。

「え? えぇと……とても美味しいですよ?  食べないのですか?」

ケーキスタンドを、気持ち両親の前に寄せた途端。

「ふざけるな!」

父の怒声が響き渡った――