「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね

 自作の図面を描いたおかげで、迷わず私は自室に辿り着くことが出来た。

「お邪魔しま~す……」

万一のことを考えて、声をかけながら遠慮がちにノブを回して扉を開ける。

「あってた!」

やはりそこは私の部屋。
……でもまったく実感が持てないけどね。

「フッ。私ってやればできるじゃない」

自分で自分を褒めると、とりあえず部屋を見渡す。

「……何から始めよう?  出て行くと言ったからには長居は無用だし……」

旅立つにしても、行く当てもない。
何しろ私は今もって自分の名前すら思い出せずにいるのだ。

「とりあえずは部屋の探求から始めようかな?」

ここは未知の場所。
自分の持ち物も何も把握できていないのだから。

でもその前に……。

私は自分のお腹を右手でぺたりと触り、壁にかけられた時計を見つめた。

時刻は十二時四十五分。

「……お腹、空いたなぁ。私の食事、どうなった?」

もしかして忘れられてる?
それともわざと忘れたふりしてる?

「これは、後者かもしれない……」

どうしよう?
厨房に押しかけて「何かちょうだい」と頼むか。
それとも夫に「お腹が空きました」と訴えるか。

「う~ん……多分、両方ともやめた方が良さそうね……」

ということは、私が取るべき行動はただ一つ。

「お金! お金はないかな!?」

早速金目の物が無いか部屋を物色し始めた。
まずは窓際に置かれた真っ白なライティングデスク。

「こういうところに、お金が入ってるはずなんだよね~」

引き出しを開けてみると、中に入っているのは日記帳と万年筆のセット。

「日記帳……? あ! もしかしてこれを見れば、何か自分に関する手掛かりが得られるかも!」

日記を開こうとして、ピタリと手を止める。

うん、日記を見るのは後にしよう。
今は食を優先するのが先だ。

「お金、お金~」

鼻歌を歌いながら私は部屋中を漁り始めた――


****

「ない……どうして、お金がないの?」

最後のクローゼットの引き出しをパタンと閉じると、ため息をつく。

信じられないことだった。
部屋中を探したのに、お金が一切出てこなかったのだから。

「でも……金目になりそうなものは沢山出てきたからいいかな?」

足元に置いてあるボストンバッグをチラリとみる。
その中にはアクセサリー類がぎっしり詰められていた。

「ふっふっふっ。いざとなればこれらを売り払って……」

グゥ~……。

お腹が盛大になる。

「うぅ……動いたから余計お腹が空いてしまったわ」

ポケットを上からそっと押さえた。
この中には大きな宝石がついた指輪が入っている。

「とりあえずこれを売りに行こうかな」

時計の針は既に午後の一時半を過ぎていた。

さっそく出掛ける準備をしようとしたその矢先。

――コンコン

部屋の扉が叩かれた。

(あ! もしかしてお昼が届けられたとか!?)

「はい、はい。今開けますよ~!」

扉に駆け寄ると勢いよく開け放ち……目を見開いた。

「あれ……どちら様?」

現れたのは、身なりの良い姿の中年の男女だった――